死亡者はHIVより多い 「結核」は“現在進行形”の病気だ

菌は海外からも入ってくる
菌は海外からも入ってくる(C)日刊ゲンダイ

 結核は「過去の病気」と思っている人が多いのではないか? それは大きな間違いだ。

 フィリピンの結核活動家、エロイザ・セペダ・テンさんは、1983年生まれ。10年前、ひどい頭痛、階段から落ちるほどのめまいなどに襲われ、病院に搬送。「疲労」と診断されたが、再び倒れ、別の病院で結核と診断された。

 結核は「肺の病気」というイメージが強いが、脳にまで感染しており、結核性髄膜炎を発症していた。しかも、速やかに適切な治療が行われなかったため、薬に耐性ができて効かなくなる「多剤耐性結核」になっていた。治療は長引き、後遺症として視力を失った。

 結核は海外だけの話ではない。Aさん(45)は糖尿病でインスリン注射を打っている。この十数年、血糖値は安定していたが、半年ほど前から従来のインスリン量ではコントロールできなくなっていた。

 主治医のもと、さまざまな検査を受けたが、血糖値上昇の原因はなかなか分からなかった。一時は膵臓がんを覚悟したAさんだったが、最終的に判明したのは結核だ。

 Aさんが、これまでに受けた検査結果を改めて見返すと、そのうちのひとつに「結核の可能性も」と書かれたものがあった。ところが、記載した医師も重要視していなかったようで、結核を念頭に置いていなかった主治医も見逃していた。

 Aさんは「排菌」していない結核だったので、現在は通院治療中。「なぜもっと早く病名が分からなかったのか」と疑問に思っている。

■患者の多くが診断にアクセスできず

 結核の死亡者数は、世界全体で年間180万人。昨年、結核死亡者数がHIVを超え、感染病の中でトップになった。患者はアジアに多く、年間1000万人が結核を発症している。このうち治療につながるのが600万人、残り400万人が治療を受けないままだ。

「結核は早期に診断を受けて適切な治療を受けられれば、10例中9例は治せます。ところが調査では、世界的に見ても治療につながる人の数はずっと横ばいのまま。結核患者の多くは診断にアクセスできていない」(「ストップ結核パートナーシップ」事務局次長のスヴァナンド・サフ医師)

 その理由は、「過疎地で治療を受けられる病院へのアクセスが悪い」「国の資金力がないために対応がうまくできない」「病院にたどり着いても十分な診断ツールがない」など、さまざま。「いずれも海外の問題。日本では結核対策が十分に行われているのではないか」と思う人もいるだろう。たしかに、結核で特に問題になっているのは途上国だ。

「しかし、日本は国内では結核の発症率は下がっていますが、ほかの先進国に比べると高い。また、日本国内の結核対策だけでは不十分。今は、国から国へ、容易に、頻繁に移動する時代だからです」(世界エイズ・結核・マラリア対策基金シニア疾患コーディネーター結核担当のエルド・ワァンドァロ医師)

 そもそも、日本は医療技術は進んでいるとはいえ、前出のAさんやその主治医の例を挙げるまでもなく、結核の正確な知識が浸透しているとは言い難い。

 結核は「現在進行形の病気だ」としっかり認識することが第一歩。結核の症状である咳、だるさ、発熱、食欲不振は、風邪などのありふれた症状でも見られる。しかし2週間以上続くようなら、呼吸器内科などで検査を受けるべきだ。診断・治療が遅れれば、エロイザさんのように多剤耐性結核に至ったり、脳などへ感染が広がることもある。

 市販の風邪薬で症状が治まる場合もあるが、結核の場合、1週間ほどで症状がぶり返す。

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