明細書が語る日本の医療

肺がん開胸手術は都道府県の格差が大きい

開胸手術の比率が高い県・低い県
開胸手術の比率が高い県・低い県(C)日刊ゲンダイ

 肺がん手術を受ける場合、がんの大きさやリンパ節転移などの状況によっては、開胸しないと取れないケースもあります。とくにステージⅢでは開胸がスタンダードになります。しかし、ステージⅡ以下で「どちらでも選択できる」としたら、多くの人は迷わず胸腔鏡を希望するでしょう。

 実際、開胸手術はいまではマイナーになりつつあります。2014年度の1年間に全国で行われた肺がん手術は4万6478件、そのうち開胸手術は7863件、率にして16.9%に過ぎません。ところがNDBオープンデータを見ると、この数字が都道府県で著しく違っていることが分かります。〈表〉にその実態をまとめました。

「開胸比率」が最も高かったのは新潟県。県内で行われた858件の肺がん手術のうち350件、実に4割以上が開胸手術でした。山形県、福島県、秋田県など東北各県も高い数字を示しています。ただし、地方だから開胸比率が高いというわけではありません。愛知県は4つの医学部を有するなど、高い医療水準を誇っている県ですが、34.9%とかなり高い数字になっています。なお東京都は、全国平均と同じ16.9%でした。

■三重と徳島がゼロ

 低いほうでは、三重県と徳島県がゼロ。この2県では、開胸手術は1件も行われなかったということです。石川県、宮城県、奈良県なども1年間を通して10件ほどしか行われていません。

 しかし、少ないから良いというわけではありません。開胸が必要な患者は一定の割合で必ず存在します。それがゼロということは、つまりこれらの県では開胸すべき重症患者を他県の病院にせっせと紹介している(追い出している)可能性が高く、その分だけ県全体としての手術スキルが低いのかもしれないからです。

 逆に愛知県などは、周辺県から重症患者を大勢引き受けているのかもしれません。開胸比率が低いから「肺がん治療に強い県」とは単純に言えないということです。

 とはいえ新潟県や山形県などは、さすがに開胸比率が高すぎる印象を受けます。胸腔鏡手術が得意な外科医が少ないのかもしれません。これらの県の患者は、手術を受ける前に、病院から納得できる説明を求めるべきでしょう。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。