明細書が語る日本の医療

胃がん手術 「治る病気になってきた」というが水増しでは

4割が治りやすい「粘膜内がん」
4割が治りやすい「粘膜内がん」(C)日刊ゲンダイ

 胃がんは年間の新規患者数でトップ。死亡数では肺がんに1位を譲りましたが、いまだに日本人の“国民病”であり続けています。とはいえNDBオープンデータを見ていくと、世間で語られている胃がんのイメージとはだいぶ違った姿が見えてきます。
〈表〉は2014年度の手術数をまとめたものです。胃がんの手術には、「内視鏡」「開腹」「腹腔鏡」の3種類があります。問題は内視鏡です。

 内視鏡的手術の対象になるのは「粘膜内がん」「悪性上皮内新生物」などと呼ばれるもの、つまり胃の悪性ポリープです。内視鏡の先から特殊な器具を出して、こそぎ取るように切除することができます。きれいに取ってしまえば、再発や転移の可能性はほとんどゼロ。そのため、がん保険などでは保障の対象外になっていたり、給付金が出るものでもかなり安く抑えられていたりします。「がん」で「悪性」なのに別モノとして扱われているため、常にトラブルの種になっています。

■4割が治りやすい「粘膜内がん」

 また、粘膜内がんは放っておくと“本物の”胃がんに成長するとされています。しかしそれも確たる証拠はなく、自然消滅するものも少なからずあるようで、いまだに議論が続いています。

 その内視鏡手術が、手術全体の半数近くを占めているのです。新規患者数をもとに計算すれば、4割近くが粘膜内がんだったことになります。我々がイメージする“本物の”胃がん患者は意外と少なく、実は年間8万1000人程度にとどまります。つまり、新規患者数でも肺がん(約11万3000人)にトップの座を譲っているというわけです。

 一方、2014年における胃がん死亡者は、約4万8000人でした。この数字は過去数年間、あまり変動していません。粘膜内がんで亡くなる人はほとんどいないため、胃がん死亡者のほぼ全員が“本物の”胃がんと診断された患者ということになります。つまり、“本物の”胃がん患者は、何カ月後か何年後かに約6割の確率(4万8000人/8万1000人)で亡くなる計算になるのです。

「胃がんは治る病気になった」と言われるようになりましたが、それは粘膜内がんを含めた、結構水増しされた数字に基づく話。本当はまだかなり分が悪いのです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。