当事者たちが明かす「医療のウラ側」

不老不死にまた一歩近づいた医学

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 これほど医学が発達しているのに、「なぜ人は老化するのか?」「寿命があるのか?」は、いまだに分かっていません。

 ハッキリしているのは、加齢に伴い、60兆個ある細胞の設計図である遺伝子が細胞分裂した際、コピーミスを起こし、細胞死や細胞損傷が起きて体の機能が損なわれることです。

 そのメカニズムの解明に向けて世界中の研究者たちが挑んでいますが、ハーバード大学医学大学院を中心とした研究チームが新たな発見をしました。

 DNA(遺伝子の本体となるデオキシリボ核酸)の老化や修復に関わる「NAD」(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド=酸化還元酵素と結合して働き、水素原子を受け取り、水素伝達の役割を果たす)の仕組みを明らかにしたのです。しかも、この仕組みを応用したマウス実験で、放射線で傷ついたマウスのDNAの修復能力を高めることに成功したというから驚きです。

 同じ研究チームは以前、生後2歳のマウスにNADを投入し、同6カ月のマウスの状態に戻すことに成功。「老化プロセスを停止させ、さらに細胞を若返らせた」として世界を驚愕させました。

 彼らは、老化した細胞内では、エネルギーを生産するミトコンドリアと呼ばれる器官と細胞核との正しいコミュニケーションができなくなることを発見。これが老化に関係することを突き止め、年齢と共に減少するNADをマウスの細胞に注入することで、細胞の若返りに成功したのです。

 今回の研究では、長寿遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子のひとつである「SIRT1」に着目しています。

 NADはこの遺伝子を活性化させるだけでなく、DNA修復を制御するタンパク質「PARP1」により消費されることが報告されています。

 一方で、PARP1はSIRT1の働きを抑制するタンパク質「DBC1」と普段は細胞内で強く結合しています。

 研究チームはこれらの間にどんな関係があるかを調べたのです。その結果、細胞内にNADが増えればその結合が解け、NADが減れば結合は強くなることが分かったのです。

 つまり、NADの増減は単にSIRT1の働きだけでなく、DBC1とPARP1との結合という形でDNA修復作用にも関係しているというわけです。

 その結果、加齢と共に修復不能なDNAが増えて、細胞変異や細胞死、臓器不全などが起こるのです。

 研究ではDBC1とPARP1との結合をNADが阻害する仕組みをさらに調べ、前記のようにそれを応用したマウス実験に成功しています。

 いずれ、加齢は病気のひとつと分類されるようになるのでしょうか?