天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

虫歯や歯周病…口腔内のトラブルは心臓疾患のリスク要因

順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 また、大動脈で炎症を起こしている部分があると、サイトカインの影響によってさらに炎症が進み、動脈瘤が急激に膨れて突然死を招くケースもあります。

 虫歯や歯周病といった口腔内のトラブルは、心臓疾患の大きなリスク要因といっていいでしょう。実際、手術を受けるくらいまで心臓が悪くなってしまった患者さんは、口腔内の健康状態が悪いケースが少なくありません。

 そうした人は、そもそも全体的に栄養状態が悪く、口腔内の衛生にまで気が回っていない人が多いのです。

 当院では、これまでは心臓疾患で受診される患者さんの口腔内を細かくチェックすることまではしてきませんでしたが、手術後の患者さんには口腔内ケアも大切だという指導はある程度行っていました。

 しかし、最近は心臓や消化器の手術、がんの手術や抗がん剤治療といった“大きな治療”を受けている患者さんに対して口腔内ケアを行うと、入院日数が短縮されるというデータが発表され、術前後の歯科受診に保険の加算が手厚く付与されるようになりました。口腔内の衛生を保つことで、誤嚥性肺炎が予防できたり、腸内環境が良くなって、回復力が向上するからだと考えています。

 虫歯や歯周病を防ぐために意識して口腔内ケアを実践することが、心臓疾患だけでなく他の病気の予防にもつながるのです。

3 / 3 ページ

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。