依存症治療に変化 飲酒やめずに「減酒外来」という選択も

飲酒をやめずにお酒の“失敗”をなくす
飲酒をやめずにお酒の“失敗”をなくす(C)日刊ゲンダイ

 どうやって家まで帰ったか記憶がない。つい人に絡んでしまう。軽く飲むはずが、翌日はひどい二日酔い……。お酒の失敗を繰り返している人は、「減酒外来」の受診を考えてみてはどうか?

■従来は「断酒」しかなかった

 わが国初の試みとして、4月から国立病院機構久里浜医療センターが「減酒外来」を開始した。樋口進院長によれば、日本のアルコール依存症の治療は、飲酒を完全に断つ「断酒」一本。依存症治療で減酒は忌み嫌われ、患者が「断酒はできない、減酒にしたい」と口に出せば、「それではダメです。治療になりません」と言われるのが常だった。

 同センターはWHO(世界保健機関)から日本で唯一のアルコール関連問題の施設として指定されており、受診するアルコール依存症患者は重症の人がほとんど。家族に無理やり連れてこられた人も少なくない。

 ところが世の中には、本人は“単なる飲み過ぎ”と思っているが、診療ガイドラインに照らし合わせるとアルコール依存症に分類される人がたくさんいる。今は軽症で、生活に支障が出るほどの問題を起こしていなくても、このままいけば将来的には重症のアルコール依存症患者になりかねない。

「自覚がない軽症のアルコール依存症患者にも対象を広げ、治療を行っていく必要がある。減酒外来は、治療選択の幅を広げるのが目的です」

■飲み方が気になっている人すべてが対象

 減酒でどれほどの効果があるのか? 実は、それは複数の研究で証明されている。

「『飲酒量を減らすことが健康度を上げることに有効』や『依存症と診断された人が、適度な飲酒や危険でない飲酒を実践することで、飲酒量の減少への実現の可能性が高くなる』などです」

 減酒がアルコールによる死亡率を減少させるという報告もある。

 日本でのアルコール依存症の患者は、107万人と推計されている。ところが、治療を受けている人になると、わずか4%ほど。「断酒させられる」「アル中といわれる」といったイメージが受診率の低さにつながっていると、樋口院長らは考えている。つまり、重症度を顧みず、すべてのアルコール依存症患者に一律の治療を行うことは、かえって治療を妨げる原因になっているのだ。

 同センターでの減酒外来は、「お酒の習慣が気になっている」「お酒をやめたくないが、量を減らしたい」「お酒に関する健康チェックをしたい」「お酒とうまく付き合いたい」など、飲み方が気になっているすべての人が対象となる。

 外来が前提で、まずは、血液・尿検査、骨密度検査、腹部エコー検査、頭部MRI検査などを受ける。次に医療スタッフが「どのような飲み方にしたいか」など、患者が目標とするアルコールとの付き合い方をチェック。その後、アルコール治療専門の医師が飲酒問題のレベルを診断基準を用いて評価し、「問題のない飲み方はどうすればいいか」「お酒の量を減らすために」など、本人の意向に沿ったアドバイスを行う。

「どれくらい減酒をするかは、患者によって異なります」

 飲酒日記をつけ、1日ごとの飲酒量や回数を振り返ったり、飲酒の習慣を変えた方法や感想を医師と話し合う。

 駅前で酔っぱらって大声を上げているサラリーマンの姿は決して珍しくない光景だ。しかし、彼らの多くは、もしかしたら減酒外来の受診を検討した方がいい人たちかもしれない。

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