気づいた時には病状進行…「誤嚥性肺炎」に3つの特徴

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 高齢者の月別死亡率は、冬に高く夏に低い。散りゆく桜の花びらを見上げながら、「ああ、今年も春を迎えられた」と老親を思いやる人も多いのではないか。しかし、春を迎えたからといって安心してはいけない。「がん」「心疾患」「脳血管障害」に次いで日本人の死亡原因第4位となる「肺炎」は、死亡する人の9割以上が高齢者で、季節と関係なく発症する「誤嚥性肺炎」の死亡率が高くなる。ところがこの誤嚥性肺炎には、多くの誤解がある。元筑波大呼吸器内科教授で「医療・介護関連肺炎診療ガイドライン」の作成委員を務めた、「和光駅前クリニック」の寺本信嗣医師に聞いた。

「誤嚥性肺炎は、食べ物が気管の中に入り込むことで口の中の細菌が肺まで到達し、炎症を起こすと考えている人がいますが、正しくありません。主に唾液やたんなどの微量誤嚥が原因で、寝ている間に肺に入り込むことで発症するのです」

1.寝ている間に発症する

 健康な人でも誤嚥はするが、咳やむせかえり(咳反射、嚥下反射)により排菌する。元気な人は雑菌が気管や肺に入り込んでも、血液中の貪食細胞などが退治するため肺炎は発症しない。

「ところが高齢者は加齢により咳やむせの動きが抑制されているうえ、気道の一部が壊れていて、雑菌が定着しやすい。これに風邪症状を起こす上気道感染や飲酒などの要因が加わることで、自分でも気付かないうちに誤嚥し、肺炎を起こしてしまうのです」

 胃に直接栄養を流し込む胃瘻を作っても誤嚥性肺炎が起こるのは、食べ物が関係しないケースがあるからだ。

2.1週間ほど気付かない

 肺炎は一気に高熱が出て、空咳、息切れなどに苦しむイメージがあるが、誤嚥性肺炎はそうではない。

「通常の肺炎は2~3日で一気に菌が増殖しますが、誤嚥性肺炎の場合は1週間ほどかかるケースが多く、その後、一気に発症します。高齢者は感覚が鈍くなっていることもあり、いつ発症したのかわからないまま病状が進行しているケースが少なくありません。『なぜ、こんなになるまで放っておいたんだ!』と言われるのは、このためです」

 では、どんな症状のときに誤嚥性肺炎を疑ったらいいのか?

「食欲がない、元気がない、倦怠感がある、食事中に咳き込むことが多くなった、唾液がうまくのみ込めない、常に喉がゴロゴロしているなどというときは、すでに誤嚥性肺炎を起こしている可能性があります」

3.睡眠薬などが引き金に

 高齢者は、うつ、不眠などを患い、抗不安剤や精神安定剤、睡眠薬などを服用しているケースが多い。これが誤嚥性肺炎の引き金になる場合がある。

「これらの薬は呼吸を抑制させるばかりでなく、大脳基底核に作用してドーパミンの分泌が減り、サブスタンスPと呼ばれる合成物量を低下させます。サブスタンスPは、咳反射や嚥下反射に関係しているため、精神安定剤や睡眠薬によっては誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなることがわかっています」

 実際、東京都内の救急病院で誤嚥性肺炎の年齢別患者数を調べたところ、高齢者と若者が多かった。若者は過度な睡眠薬服用者だった。

 ちなみに、誤嚥性肺炎は、脳梗塞後の患者に多いことが知られている。

「高齢者の誤嚥性肺炎が厄介なのは、抗菌剤が効いても嚥下機能が回復しないため、すぐに再発することです。それを鍛えるには、とにかくおしゃべりをすること、寝ている間に雑菌が肺に入らないように枕を高めにすること、肺炎球菌ワクチンを打つことです」

 肺炎球菌ワクチンは肺炎全体の2~3割程度にしか効かないといわれるものの、誤嚥性肺炎の2~5割を抑えられるとの報告もある。老親には勧めるべきだろう。

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