異変が起こったのは、17歳のときでした。急に風邪をひきやすくなったんです。それまでは周りがひいていても自分だけは大丈夫なことが多かったのに、「何で?」と思ったのが最初です。
そのうち、体育の授業についていけなくなり、しまいには1階から2階に階段を上がるだけでゼイゼイ苦しくなりました。病院に行くと「喘息を発症しています」とのこと。それ以降、運動しなくても咳が止まらず、咳のし過ぎで嘔吐してしまうようになり、1カ月半ほどで体重が10キロも落ちてしまったんです。
米国に遠征したとき、何とか試合はこなしても熱は出るし、食べても戻してしまうので、帰国後にもう一度、受診しました。すると「喘息でしょう。スポーツは難しいのでは」と告げられて……。それが18歳でした。
■ティースプーン半分のバウムクーヘンで意識不明に
それでも、翌年はプロに転向したんですが、1年目でもう体がついていかない状態に……。そんなとき、スポンサーになってくれた企業の病院で「食物アレルギーの検査をしてみたら?」と言われたのです。検査の結果、小麦、卵、チーズなど、それまで好きで食べてきたものがすべてアレルゲンの「遅延型食物アレルギー」と診断されました。原因はわかったものの、そこからが結構、苦しかった。
最低限の栄養は確保しながら、少しずつアレルゲンを減らす生活が始まりました。確かにアレルゲン除去食を取るようになって咳がピタッと止まり、動悸や息切れもなくなったのですが、代わりにストレスがすごかった(笑い)。一度、調子がいいときにバウムクーヘンをティースプーンにほんの半分食べたら、それだけで動悸が激しくなって、8時間も意識がなくなってしまいました。
プレーでも体調の違いは歴然でした。以前は初日は良くても2日目に悪くなるのが当たり前だったのですが、2日間変わらずに回れるようになって、「これが本来の調子なんだ」と思えたんです。でも、そうなったらなったで今度は極端な除去に走って、拒食症になりました。おにぎり1個を見つめて終わる……みたいな。関節痛で病院に行ったら「栄養失調です」と点滴を打たれました。
■食べるのが嫌で拒食症に……
その辺りがどん底でしたね。食べるのが嫌でした。「どうせ食べたいものは食べられないんだから、もう食べなくていい!」と空腹になると水をガブ飲みしたり……。野菜は食べてもいいのですが、醤油や味噌の発酵調味料はダメなので、味付けは塩とこしょうとカレー粉ぐらい。ツアーではコンロ1つのキャンピングカー生活なので、炒め物ぐらいしかできません。もう食べ物を見るのも嫌で、去年の今ごろは、今より7キロぐらい痩せていました。
ただ、ゴルフをやめたいと考えたことはありません。何とかゴルフを続ける方法を見つけようと必死でした。そんなとき、知人のアドバイスでもう一度、アレルギーの検査を受けました。食物アレルギーも遅延型と即時型があって、考え方が違うらしいんです。それで即時型の検査を受けたら、命に関わるアレルゲンは小麦だけで、他のものは低い数値だったのです。
そこから毎日、何をどれだけ食べてどんな症状が出たかをつぶさにノートに書き留める作業を始めました。半年続けたらだんだんわかってきて、去年の夏ぐらいからは卵と乳製品は少しずつ取り入れています。パンや麺は米粉のものを利用し、最近はパンメーカーを買って米粉で作ったりもしています。発酵調味料も少量ずつあえて取るようにして、食事はずいぶん改善されました。
そんな中、次に来たのが「日光アレルギー」です。去年の5月、半袖でプレーをしていたらひどい頭痛になり、1週間寝込みました。その後、グローブをしない右手だけがひどく荒れたので皮膚科を受診すると、日光アレルギーという診断。おまけに膠原病にもなりかけていると言われ、「自己免疫疾患コンプリートしちゃったな」と思いました(笑い)。
でも深刻にならず、「何とかコントロールする方法はあるはず」と模索中です。夫も明るいスポーツマンなので何でも笑い飛ばしてくれるので前向きになれます。私の影響で市販の物を避けるようになってしまい、食事は多少面倒くさくなりましたけど(笑い)。
病気は、自分に一番足りていなかった「人の立場になって考える」ことを教えてくれました。たとえば、レストランで何でも食べられる人と同じ食卓を囲むだけでしんどい人がいるなんて、考えたこともなかったですから。私にとってはプラスのことの方が多かった。「病気になってない自分は好きじゃない」と言えるくらいです。
こういうハンディを持ったゴルファーでも、みんなと変わりなくプレーできる姿を見せることで、何かを感じてくれる人がいればいいなと思っています。
▽おかむら・さき 1992年、徳島県生まれ。10歳からゴルフを始めるとすぐに頭角を現し数々のジュニア大会で好成績を収める。高知中央高校でもゴルフ部に所属し、卒業と同時にプロ転向。今年1月にラグビー選手との結婚を発表。
独白 愉快な“病人”たち