天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

食べた後すぐに眠るのはNG 心臓を守る「3つの食事法」

順天堂大学医学部の天野篤教授
順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 心臓病の発症には「食事」が大きく関わっているといえます。心臓病の代表的なリスク因子である「高血圧」「高血糖」「高コレステロール」は、いずれも普段の食習慣によって左右される場合が多いのです。

 死因の第1位が心臓病である米国でも、心臓病や糖尿病といった心血管疾患による死因の約45%は、不適切な食事によるものだと報告されています。

 ただ、長年の食習慣をガラリと変えるのはなかなか難しいという人がほとんどでしょう。そこで、心臓病を予防するために最低限これだけは実践しておくべき食事法を紹介しましょう。

■「ドカ食い」をしない

 まずは「ドカ食い」をしないことを心がけてください。空腹時に一気にたくさん食べると、血糖値が急激に上がります。すると、血糖値を一定に保とうとして膵臓からはインスリンがたくさん分泌されます。この状態が続くと、インスリン抵抗性=インスリンが効かない状態ができてしまい、肥満と糖尿病というメタボリックシンドロームの2条件につながります。インスリンには栄養を蓄えるために中性脂肪を作ることを促す働きもあるので、肥満に傾きやすくなるからです。

 ドカ食いが糖尿病と肥満につながり、さらには心臓病を発症させやすくします。血糖値が高い状態が続くと、血管が傷められたり、血小板の働きや血液凝固因子に異常が起こるなどして動脈硬化が進み、狭心症や心筋梗塞を引き起こすのです。食事は、ゆっくりよく噛んで食べることを意識しましょう。

■食べた後、すぐに眠らない

「食べた後、すぐに眠らない」ことも心臓を守るためには重要です。動脈硬化が進むと、血管はどんどん石灰化していきます。血管の石灰化によって最終的に影響を受けるのは冠動脈と大動脈弁で、心筋梗塞や大動脈弁狭窄症といった突然死する病気につながります。

 近年、食生活の欧米化や高齢化が進んだ影響で高コレステロールの人が増えています。高コレステロールは石灰化の大きな要因ですから、それだけリスクを抱えた人が増えているということです。さらに最近は、高コレステロール体質で尿酸値が高い人は、血管の石灰化が早い段階で起こりやすいことがわかってきました。

 尿酸値が高くなりやすい人は、遺伝的なものだけでなく、「食べてからすぐに寝る」タイプに多いことが知られています。つまり、高コレステロール体質の人が食事をしてすぐに眠るという行為は、血管をどんどん石灰化させ、一直線に突然死に向かっているということなのです。

 まずは、検査を受けてコレステロールと尿酸値をしっかりチェックしてください。数値が高めだった場合、治療をするのが望ましいのはもちろんですが、まず生活習慣の中で、少なくとも食べた後にすぐに寝ないことを心がけましょう。

■「食後の運動」に注意

 心臓を守るためには、「食後の運動」にも注意してください。心臓は、食後1時間くらいは活発に働きます。食べた物の消化・吸収を助けるために、胃腸の血流を増やす必要があるからです。食事をするだけで、心臓の負荷は大きくなるということです。

 そのため、心臓の手術を受けたり、心臓病を抱えている患者さんには、食後はなるべく体を動かさないように指導されます。食後1時間はリラックスして休息することが、リスクを増やさないために重要なのです。

 しかし、とくに心臓にトラブルもなく健康な人は、食後に体を動かすことが心臓を強くすることにつながります。食事をしてから心臓が活発に働いているタイミングであえて体を動かし、心臓の拍出量を増やして負荷をかけてやるのです。胃腸の血流を増やして消化・吸収を補助しながら、心臓をある程度は鍛えることができるのです。

 もちろん、食後すぐに激しい運動をするのは無理ですから、食事をしてから20~30分くらいたったところで軽くウオーキングするのがいいでしょう。

 こうした3つの食事法を意識するだけでも、心臓病の予防につながります。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。