「認知症」を知るための20週間

薬を飲んだら暴力的に…穏やかな性格を狂わす副作用

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 親や配偶者が認知症と診断され、詳しい説明もなくアリセプトなどの抗認知症薬を処方されたら、「なぜその薬が必要なのか」と徹底的に医師に確認した方がいい。

 もし、納得のいく答えが返ってこなければ、医療機関や医師を替えることも検討すべきだ。

「認知症の周辺症状(暴力、妄想、抑うつ、不眠、徘徊など)には、抗認知症薬は効かないどころか、かえって周辺症状がひどくなるケースが珍しくない。あまりの変貌ぶりに『どうしたらいいのか』と駆け込んでくるご家族もたくさんいる」

 こう話すのは、在宅医療の第一人者で、「認知症の薬をやめると認知症がよくなる人がいるって本当ですか?」など認知症関連の著書が多数ある「長尾クリニック」の長尾和宏院長だ。

 ある70代の女性は、アルツハイマー型認知症の夫に、かかりつけ医から処方された抗認知症薬を飲ませたところ、興奮状態が増し、大声で暴言を吐いた。

 調理をしている時、振り向くと、夫がわめきながら包丁を振り回していたこともあった。この時は、殺されるのではないかとの恐怖まで抱いた。夫は認知症を発症するまでは非常に穏やかな性格で、発症後も認知機能の低下はあるものの、暴言や攻撃的な行動は見られなかった。

 ところが、かかりつけ医に「夫が暴れるのは薬の影響ではないか」と聞いても、「薬をやめれば認知症が悪化する」と反論されたうえに抗精神病薬も処方された。

 結局、抗認知症薬をやめたのは、離れて暮らしていた息子の勇気があったからだ。抗精神病薬でおとなしくなったが寝たきり状態になり、感情もほとんど表さなくなった父親を見た息子が、強引に別の医療機関へ連れていき抗認知症薬を中止できた。

 抗認知症薬をやめてしばらくすると、夫は再び歩けるようになり、暴言や攻撃的な行動も治まり、穏やかになった。

 認知症の周辺症状に対する抗認知症薬には、アリセプト、リバスタッチパッチ、レミニール、メマリーがある。

 これらの薬は、階段を上るように最高量まで増量していく規定が定められ、もし守らなければ保険審査が通らず、医療機関にペナルティーが科せられていた。そのため機械的に増量されていたが、長尾医師が代表を務める「抗認知症薬の適量処方を実現する会」の活動が実り、昨年6月1日に撤廃された。しかし周知が十分ではなく「増量規定の撤廃」をまだ知らない医師が大半だという。

「薬にはさまざまな副作用もあるので、その時のその人に合う適量を探して処方すべきです。しかし現実には誤診、誤処方だらけで、多くの人が薬の副作用で苦しんでいる。『医原性(医療行為が原因の疾患)の認知症』だらけです」(長尾医師)

 本人は口に出して処方を拒否できない。人間の尊厳を守れるのは、家族であるあなただけだ。