数字が語る医療の真実

和食の弱点 コレステロール不足が脳出血を招く

動物性タンパク質と脂肪が不足していた
動物性タンパク質と脂肪が不足していた(C)日刊ゲンダイ

 先週、和洋折衷の食事が一番と言いました。しかし、和食、洋食には、それぞれにいいところと悪いところがあります。

 西洋文化が入る前の日本食の最大の弱点は、「動物性タンパク質と脂肪が不足していた」というところです。動物性脂肪の代表といえば、今や動脈硬化の元凶とされるコレステロールです。そのコレステロールが足りないことが、かつての日本食の最大の弱点のひとつでした。

「コレステロールの不足が和食の弱点」というと、なんだか不思議な感じがするでしょう。しかし、コレステロールの過剰が病気を起こすだけではなく、不足も病気を起こすのです。

■和洋折衷食が発症を大幅に減らした

 脳卒中といえば今や大部分は血管が詰まる脳梗塞ですが、以前の日本人では、血管から出血するタイプの脳出血の割合が欧米に比べてかなり高いというのが特徴でした。

 脳出血は、高血圧の人に多いという点では脳梗塞と同様ですが、コレステロールが高いとなりやすい脳梗塞とは逆に、コレステロール値の低い人に多いことが、日本人だけでなく、米国人を対象にした研究でも示されています。

 脳出血は戦争を境に、ここ数十年で急速に減少していることが示されていますが、これは高血圧の治療の普及とともに洋食が広がり、乳製品や卵、豚肉、牛肉などからコレステロールをしっかり取れるようになって激減したのです。

 今では健康的と考えられる「菜食が多く、獣の肉を食べない食事」は、あまりに極端な方向に向かうと、戦前の日本食のように脳出血の危険が高まるかもしれません。日本人で脳出血が大幅に減った背景も、和洋折衷の食事の普及が大きな役割を果たしているのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。