明細書が語る日本の医療

前立腺がん 70代は200人に1人が罹患するが手術率は27%

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 前立腺がんの手術は「開腹」「腹腔鏡」「ミニマム」の3種類が用意されています。

 開腹手術がもっとも多いのですが、臍下から恥骨までを縦真一文字に切り開くという、かなり“豪快”な手術になります。また周辺にがんが広がっている場合は、肛門付近をザックリと切り開く術式も取られますが、今回は開腹手術でまとめてあります。

 腹腔鏡手術は下腹部に2センチほどの切れ込みを数カ所つくり、そこからビデオカメラと手術器具を挿入する方法。開腹手術と比べて患者への負担が格段に軽くなります。熟練の技が必要とされているため、件数はかなり少なめです。しかし最近、手術支援ロボットを使った腹腔鏡手術が健康保険扱いになるなど、注目を集めているところです。

 ミニマム手術(ミニマム創手術)は開腹手術と腹腔鏡手術を足して割ったような方法です。下腹部を数センチだけ切開し、そこから内視鏡や腹腔鏡を挿入して前立腺を切り取ります。腹腔鏡手術よりもやりやすく、開腹手術よりも創が小さいという利点が挙げられます。〈表〉に各年齢の患者数、手術数、死亡数をまとめました。

■過剰医療の可能性も?

 30代や40代で前立腺がんを心配する必要は、ほとんどなさそうです。50代では1年間で2300人に1人が発病し、6万6000人に1人が亡くなるという割合です。あえてPSA検査を受けるか、もし「がん」と診断されたら手術を受けるか、よく考えたほうがよさそうな数字です。

 患者数のピークは60代(毎年420人に1人)から70代(同200人に1人)。しかし、手術件数は必ずしも多くはありません。60代では新規患者の45%、70代では27%にとどまっています。放射線やホルモン剤などが有効なケースも少なくないからです。

 80代になっても、新規患者は1万5000人以上(225人に1人)も出ています。しかし手術件数はぐっと減って、開腹・腹腔鏡合わせてわずか104件にとどまっています。ところが死亡数は約7000人。単純にいって、残り8000人以上が「別の死因」で亡くなっているのです。逆に60代・70代の死亡者の中には、前立腺がんの「過剰治療」が死因だった人が少なからずいた可能性が考えられるわけです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。