薬で「便秘」「腹痛」一挙に解決…過敏性腸症候群が対象

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 便秘の新薬が3月に発売された。どういうメリットがあるのか、島根大学医学部内科学第二教授の木下芳一医師に聞いた。

 新薬は「リナクロチド(製品名リンゼス)」。過敏性腸症候群(IBS)の便秘型が対象で、この疾患への薬としては国内初となる。

 特徴としては、大きく2つある。1つは便が軟らかくなり、排便しやすくなる。もう1つは腹痛にも効く。腹痛への作用は従来の薬にはなかったため、腹痛を伴う便秘で悩んでいた人には朗報だ。臨床試験では副作用として下痢が9%の人に見られたが、その場合は服用量を半分に減らして様子を見る。

 ただ問題は、効果が高い薬が登場しても、自分の便秘の原因が何で、治療で改善できるものと知らない人が多いことだ。

「便秘には、今回の新薬の対象である便秘型IBSと、機能性便秘があります。簡単にいうと、便秘型IBSは腹痛を伴う便秘、機能性便秘は腹痛などがない便秘。ただ、重なる部分もあり、一連の病気の可能性もあります」

 便秘型IBSで腹痛が見られるのは、腸管の知覚過敏が原因。便秘で腸管が伸び広がる。健常であれば問題ないが、IBSの人は知覚過敏で痛みを感じる。

 だから、この知覚過敏を解決すれば、腹痛は軽快するわけだが――。

「腸管の伸展知覚過敏は、ストレス、腸内細菌、炎症、心理的異常、遺伝的因子などさまざまな要因が絡み合っており、改善が難しい」

 そのため、排便にフォーカスを当て、これをうまくいくようにし、下腹部痛を軽快する。

 便秘型IBS、機能性便秘、いずれも、治療は一般的に「生活指導」「食事指導」「薬物療法」になる。ところが、「朝食を毎朝食べ、その後に排便」「1日30分以上のウオーキングや運動」といった生活指導は、エビデンス(科学根拠)がなく、研究では「効果がない」という結果になっている。

「1日3回バランスのよい食事」「水分の摂取を増やす」といった食事指導も、やはりエビデンスがなく、「水をたくさん飲んでも効果なし」という結果が出ている。

■副作用はほぼゼロ

 そこで薬物療法だが、医療機関で圧倒的に多く処方されてきたのは、酸化マグネシウムだ。

「便を増やして軟らかくし、排便しやすくする作用に優れています。ただし、便秘は高齢者が多く、腎臓の機能が低下している人がかなりいます。酸化マグネシウムは高マグネシウム血症が重篤な副作用として報告されており、腎機能低下の人では減量を検討しなくてはいけません」

 5年前に発売された「ルビプロストン(製品名アミティーザ)」も、小腸からの水分分泌を促して便の水分含有量を増加させ、排便をスムーズにするが、「飲むとムカムカする」といった嘔吐の副作用がある。

「便秘はよくなっても、嘔吐があれば使いにくい。今回の新薬は、下痢以外の副作用はほぼなく、便秘型IBSの腹痛にも効く。それらが、今までと違う特徴です」

 押さえておきたいポイントは3つ。

 まず、便秘の原因を確かめる。

 大腸がんなど重大病が隠れている可能性もあるので、病院でのチェックは必須だ。

 次に、すでに病院で処方された便秘薬を飲んでいる人で「効き目が不十分」「便秘は解消されたが腹痛がある」といった人は、新薬について担当医に相談してみる。

 さらに、市販薬で対処している人は、その多くが、「刺激性下剤」といわれる作用の強い薬。本来はレスキューとして使用されるもので、慢性的に飲むものではない。この機会に、適切な薬に替えるべきだ。

「新薬は飲み続けても副作用の心配はなく、依存性がないことも確かめられています」

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