手術の前に…逆流性食道炎は「ARMS」で治すという選択肢

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 逆流性食道炎は、胃酸を含む胃の内容物が食道へ逆流する病気だ。近年、重症例が増えている。

 食道と胃の間には、胃の内容物の逆流を防ぐ括約筋があり、括約筋の機能が低下すると胃と食道のつなぎ目(噴門部)が緩み、胃の内容物の逆流が起こりやすくなる。

 原因は主に3つある。まず胃酸の分泌量を増やす「脂肪の多い食事」。次に「体質」。そして「過食」だ。昭和大学江東豊洲病院消化器センター長・井上晴洋教授が説明する。

「胃袋には一定の容量があり、過食を繰り返すと胃袋が過度に伸び縮みします。それが頻回になると、胃の入り口か出口が広がる。逆流性食道炎の大きな原因の一つです」

 逆流性食道炎の症状は、胸やけ、胸の痛み、胸のつかえ感など。治療の第1選択は胃酸分泌抑制薬「PPI」を中心に用いる薬物療法と、脂肪分の多い食事や暴飲暴食を避けるなどの生活習慣改善になる。

■低侵襲性の内視鏡的治療

 薬物療法で8~9割は症状をコントロールできるが、残り1~2割は効果が不十分、あるいは効果がない。その場合は、噴門部の緩みを修復する外科手術が検討される。

 ただ、「外科手術」というと患者の多くはおじけづいてしまう。逆流性食道炎はがんなどと違い、放っておいても死なない良性の病気だからだ。

「逆流性食道炎の外科手術は入院も4日程度で済み、安全で成績の良い治療です。それでも、薬の次が外科手術というのは、患者さんにとってハードルが高い。そこで行うようになったのが内視鏡を用いた治療法ARMS(アームス)です」

 内視鏡で噴門部の粘膜を3分の2周から5分の4周切除し、瘢痕形成によって縮ませる。入院期間は外科手術と同じ4日間だ。

 井上医師が最初にARMSを行ったのは10年前になる。早期食道がんで、逆流性食道炎もあった患者だった。食道がん切除のために内視鏡治療を行い、胃の内容物の逆流防止効果も期待して噴門部の粘膜も切除した。すると、逆流性食道炎の症状が劇的に改善し、患者の満足度も高かった。

 それでも、外科手術という確立された選択肢があるので、内視鏡治療は積極的に行ってこなかった。しかし一方で、「薬は効かないが外科手術は嫌」とつらい症状を抱え続ける患者がかなりいる。そのため、3年ほど前から逆流性食道炎だけの患者にも内視鏡治療を実施するようになった。

 現時点で、ARMSを受けた患者は70人いるという。

「薬物療法では効果がない患者さんが対象です。ただし、食道と胃のつなぎ目が緩み、それが胸の方に『滑脱(ずれ)』している場合は、従来の外科手術になります」

 条件を満たしていても暴飲暴食や早食いがやめられないような人には、井上医師は外科手術を勧めている。それらの生活習慣は、ARMSの効果を弱めるからだ。

「外科手術で期待される効果が100点だとしたら、ARMSは70点。十分に合格点ですが、生活習慣によっては向いていない人もいるのです」

 ARMSを受けた人のうち5割は薬を飲まなくても症状がなくなり、5割は薬で症状をコントロールできる。それまで薬が効かなかったが、治療によって効くようになる。

 現在は自費診療で、「3割負担の人が手術を受けた時に払う金額」と同程度とのことだ。

 逆流性食道炎は暴飲暴食と関係が深い。つまり逆流性食道炎になる人は、ほかの生活習慣病のリスクも抱えており、近い将来、糖尿病、高血圧、脂質異常症などを発症する可能性が高い。逆流性食道炎の治療の選択肢が増えたのをきっかけに、「将来」を考えて生活も改めるべきだ。

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