数字が語る医療の真実

脳卒中とコレステロール 高い方がいい? 低い方がいい?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 日本食が西洋化する以前の、卵や牛乳、獣の肉を食べない、コレステロールの少ない食事では脳出血が多かったのですが、西洋化した現代ではどうなのでしょう。

 これについても、2009年に茨城の住民を対象にした研究で、脳出血とコレステロールの関係を検討した論文が報告されています。それによれば、洋食が普及した現代においても、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が80mg/dl未満の人の脳出血のリスクを1とした時に、140mg/dlの人で0.45と、悪玉コレステロールが高い人で50%以上も脳出血の危険が低かったのです。

■事実はあいまいなところにある

 海外においても、コレステロールを低下させるスタチンという薬を用いて脳卒中に対する効果を検討したところ、スタチンを飲んだグループで1.68倍も脳出血が多かったという結果が2008年に報告されています。

 現代においても、海外においても、「低コレステロールに脳出血が多い」という関係は一貫しています。ここに疑いをはさむ余地はなさそうです。そうなると「コレステロールの治療はすべきでない」と早合点されるかもしれませんが、間違いです。

 コレステロールを下げることにより、血管が詰まる脳梗塞や心筋梗塞の予防効果があることもまた明らかなのです。その2つのバランスを考えてどうするか決める必要があるのです。

「低コレステロールこそ危険」「いや高いほうこそ危険」という論争がありますが、どちらも間違っています。事実はその間のあいまいなところにあるのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。