がんと向き合い生きていく

精巣腫瘍 薬だけで最も早く治せるがんになった

都立駒込病院名誉院長・佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 その約2年後、日本で「シスプラチン」が使えるようになりました。シスプラチンと他の抗がん剤との併用により、精巣腫瘍から肺などに転移していても1~2コースの治療で、転移はほとんど消えるようになったのです。また、その後の検討で、そうした患者の80%以上は治癒するようになりました。彼らの発病が2年遅れていたら助かったのに……と悔やまれます。

■転移していても、ほとんどが消える

 ちょうどそのころ、カタコトの日本語しか話せない中東出身のEさん(33歳)が私のところにやってきました。右睾丸の腫脹に気づき、ある泌尿器科で切除したのですが、両側の肺に転移が多数認められたことで、紹介されてきたのです。

 健康保険証は持っておらず、すでに超過滞在となっていたようでした。私は至急本国へ帰国することを勧めたのですが、Eさんから「私たちの国は戦争が続き、抗がん剤治療など無理です。ここで死んでもいいから治療して下さい」と涙ながらに訴えられました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。