その約2年後、日本で「シスプラチン」が使えるようになりました。シスプラチンと他の抗がん剤との併用により、精巣腫瘍から肺などに転移していても1~2コースの治療で、転移はほとんど消えるようになったのです。また、その後の検討で、そうした患者の80%以上は治癒するようになりました。彼らの発病が2年遅れていたら助かったのに……と悔やまれます。
■転移していても、ほとんどが消える
ちょうどそのころ、カタコトの日本語しか話せない中東出身のEさん(33歳)が私のところにやってきました。右睾丸の腫脹に気づき、ある泌尿器科で切除したのですが、両側の肺に転移が多数認められたことで、紹介されてきたのです。
健康保険証は持っておらず、すでに超過滞在となっていたようでした。私は至急本国へ帰国することを勧めたのですが、Eさんから「私たちの国は戦争が続き、抗がん剤治療など無理です。ここで死んでもいいから治療して下さい」と涙ながらに訴えられました。
がんと向き合い生きていく