13人死亡で厚労省が緊急提言も「無痛分娩」の誤解と真実

提供/東京マザーズクリニック

 今月の日本産科婦人科学会学術講演で厚生労働省研究班が「無痛分娩を行う際には十分な医療体制を整えるよう求める」との緊急提言を行った。“わざわざ緊急提言するくらいだから無痛分娩は危ないのではないか”と思う人もいるだろう。今年1月に大阪で無痛分娩で出産中の妊婦が意識を失い死亡したと報じられたことも気になる。本当はどうなのか? 日本周産期・新生児医学会認定周産期(母体・胎児)専門医で、東京マザーズクリニック(東京・上用賀)の林聡院長と柏木邦友麻酔科医師に聞いた。

 出産は昔に比べて安全になったとはいえ、高齢出産や痩せ形妊婦が増えるなど新たなリスクもあり、女性が命がけで行うことに変わりはない。

 提言では去年4月までの7年間に報告された妊産婦の死亡例298人のうち13人に無痛分娩が行われ、1人は麻酔による中毒死だったことが明らかにされた。羊水が血液に入る症状や大量の出血が起きたケースもあったという。

◆通常分娩より死亡率が高い?

「無痛分娩で亡くなった方が13人おられるというのは、大変不幸なことですが、必ずしも無痛分娩による母体死亡率が通常分娩に比べて高いわけではないと思います。無痛分娩は推計で分娩全体の5~8%。13人の方は全体の約5%ですから、とくに高くはありません」

◆無痛分娩特有の死亡例が多い?

 羊水が血液に入ったり、大量出血による死亡については通常の出産でも誰にでも起こりうる。

「研究班の報告でも、無痛分娩が(これらの状況が)有意に高いと言っているわけではないと報告しています。ただし、麻酔による中毒死は、明らかに無痛分娩特有の死亡理由です。無痛分娩を手掛ける医療機関は注意しなければなりません」

 米国など一部の国では無痛分娩が分娩全体の7~8割を占めていて、ポピュラーな出産法となっている。

■子供の成長への影響は?

◆病院でなければ危険?

 日本では硬膜外鎮痛剤を背中に注射して痛みをゼロにするところもあれば、痛みを残して出産時の「いきみ」ができるように麻酔の量や種類を変える「和痛分娩」を行うところもある。それぞれの医療機関で若干の手法の違いはあるが、基本的な方法は確立しているという。

「最近は無痛分娩を手掛ける医療機関も増えています。しかし、病院であれ、クリニックであれ、医師、看護師、助産婦の経験が少ないところもあります。施設間に違いがあるとすれば、その差でしょう。今回の提言は、無痛分娩を手掛ける医療機関に対する注意喚起であって、無痛分娩が危ない、病院の方が安全ということではないと思います」

◆鉗子・吸引分娩で子供が傷つく?

 もちろん、無痛分娩には通常分娩にはないトラブルがある。硬膜外鎮痛剤の副作用として「足の感覚が鈍くなり、足に力が入らなくなる」「尿意が少なくおしっこが出にくい」「かゆみが出る」など。ほかに、「麻酔が思ったように効かなかった」「麻酔が効き過ぎたせいでうまくいきめずに子宮収縮がうまく行えず、鉗子や吸引分娩になった」「すぐ治ったが鉗子や吸引分娩で赤ちゃんの頭部に擦過傷ができた」などがある。

 出産費用も通常分娩より数万から20万円程度高くなる。

◆子供の成育にマイナス?

「無痛分娩だと、母体に注射した麻酔薬の一部が胎児に流入して子供のその後の成育に問題が残るのでは、と不安に思われる方もおられます。しかし、実際にそれで不具合が出たという研究報告はありません」

 なお、無痛分娩には痛み以外のメリットもあるという。

 例えばお産の痛みが軽くなることで、「出産時の脳卒中が心配になるような高血圧の妊婦でも出産できる」「陣痛中に消費される酸素量が少ないため、心臓や肺の具合が悪い妊婦さんも負担が少なく出産できる」などだ。

 高齢出産が増えている現状では、無痛分娩は検討すべき出産方法のひとつ。医療機関選びなどで十分な注意は必要だが、むやみに恐れる必要はないのではないか。

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