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乳がんの「部分切除」の割合 沖縄県は三重県の2倍

部分切除の割合が高い県・低い県
部分切除の割合が高い県・低い県(C)日刊ゲンダイ

 乳がん手術の都道府県格差について見ていきましょう。

 まず件数ですが、2014年度に全国で行われた乳がん手術は、各種合わせて8万2088件。トップは東京都の1万1818件で、全体の14.4%を占めていました。あくまでも東京都の病院で行われた手術件数であって、都民が受けた件数ではありません。

 東京都の女性人口は全国の10%に過ぎませんし、若い人が多いので、都民の手術件数はもっとずっと少ないはず。東京には全国から患者が集まってくるため、手術数も多いということなのです。

 以下、大阪府(5682件)、神奈川県(5414件)、愛知県(5388件)と続いています。少ないほうは高知県(324件)、鳥取県(332件)、島根県(370件)の順です。

 これらの県の女性人口は東京都の20分の1前後に過ぎませんが、手術件数には35倍前後もの違いがあります。つまり、かなりの患者が他県に流出しているわけです。

 手術を受ける女性にとって、部分切除か全切除かは切実な大問題。全国平均で見ると、ちょうど半々になっています。しかし、ここでも大きな都道府県格差が表れています。各県の部分切除の割合を計算し、〈表〉にまとめました。

■患者を引き受ける人数が多い県は低くなる?

 トップは沖縄県。なんと県内で行われた乳がん手術の3分の2近くが部分切除でした。他にも四国や東北各県で、部分切除の比率が高くなっています。最下位は三重県で、こちらは部分切除が3分の1に達していません。沖縄県と三重県を比べると、部分切除の格差は、なんと2倍にも達しています。次いで岐阜県、愛知県の順で、東海地方は全切除が盛んであることが分かります。

 部分切除では、がん組織を完全に取り除けたかどうかを、手術中に病理診断を行って確認する必要があります。また術後は放射線照射などの処置も必要になります。つまり部分切除を多く行うためには、病理医や放射線治療医が必要になるわけです。実際、三重県や岐阜県では、手術件数の割に病理医も放射線治療医も不足気味です。

 一方、がんが進行して乳房全体や、胸筋にまで広がっている場合は、全切除するしかありません。愛知県は北陸を含む周辺他県から重症患者を多く受け入れているため、部分切除の割合が低くなっているのかもしれません。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。