健康投資も二極化の時代…医師が指摘「ほどほどが一番」

話をしてくれた東大医学部付属病院放射線科の中川恵一准教授
話をしてくれた東大医学部付属病院放射線科の中川恵一准教授/(C)日刊ゲンダイ

 健康でありたい。誰しもそう思う。しかし、ことさら高額な治療を求めたり、予防のために入会金数百万円のサロン検診に加入したりするのはどうなのか。そんな中、「健康投資はほどほどが一番」と言うのは、東大医学部付属病院放射線科の中川恵一准教授だ。その真意とは。中川准教授に聞いた。

■1回10万円のPET検査は受けない方がいい?

 健康投資と一口にいっても幅広い。その中でも大きな出費が、検診だろう。がん検診のひとつ、PET検診は人気だ。医療機関によってまちまちだが、安くても1回10万円近い。触れ込み通り、たった1回で全身のがんをくまなくチェックできればいいが、そうでもないという。

「がん治療の先進国・米国のがん専門医と話をすると、『日本は、そんなにPET検査に頼っているのか』と笑っていました。海外でPETが普及しているのは、韓国と台湾くらい。では、なぜ広がらないかというと、がんの発見率はよく見積もっても30%程度と少ない上、見つけたことによる過剰治療のリスクが高いのです」

 PETでよく見つかるがんのひとつに、女性に多い甲状腺がんがある。ところが、甲状腺がんは良性で放置しても問題ないケースが少なくない。それでも、「がん」と診断された恐怖から、患者は手術を選び、切除すると、分泌できなくなったホルモンを補うため一生薬が手放せなくなる。

「高い費用を払って不利益を被っている恐れがあるのです。検診でPETは受けない方がいい」

 日本人に多いがんは胃がん、大腸がん、肺がんなどで、この中でPETが見つけやすいのは大腸がんだけ。残りの2つは見逃しやすい。得意の大腸がんだって、PETは被曝リスクがあるが、検便と内視鏡を組み合わせれば被曝リスクなしで低料金で済む。検便なら1000円ほど。高所得者が健康投資を無駄遣いしている一例がこれだ。

■低所得者ほど検診受診率が低い

 保険制度は、公務員対象の共済組合、大企業向けの健保組合、中小企業対象の協会健保、自営業者をカバーする国民健康保険に主に分かれる。

「その分類は年収を反映する傾向がありますが、低所得者が多い国保ほど検診受診率が下がる傾向があります」

 低所得者は無防備なのだが、知識がないことによるリスクも大きいという。

「たとえば、胃がんは95%がピロリ菌の影響といわれています。胃がん検診が面倒なら、ピロリ菌を除菌すればいいのですが、そういう情報を知らされていないがゆえ、胃がん検診も除菌治療も受けないケースが少なくないのです」

 ほかのがんについても同様だ。食事や運動などの生活習慣は高所得者ほど栄養バランスに気をつけ、適度な運動を心掛ける傾向が強い。低所得者は逆だ。

「特によくないのが食事です。低所得者は炭水化物と脂質に偏り、肥満と糖尿病を招きやすい。糖尿病は、がんとも密接な関係があり、ダブルでよくないのです。それで、血糖値対策と称して、サプリを飲んだりしても効果はゼロ。根本の食事を改めるべきなのに、そうなっていないケースが往々にしてあるのです」

 では、どうするか。公的検診だ。「ほどほど」とはそういうことだ。

関連記事