味覚障害、子供の低身長…亜鉛欠乏症が原因かもしれない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「低亜鉛血症」に関する薬が3月に承認された。国内で初めて、かつ唯一の保険適用となる亜鉛製剤だ。

 低亜鉛血症は、血中の亜鉛濃度が低下し、体内の亜鉛が不足した状態を指す。低亜鉛血症によって「味がわからない」「食欲がない」「元気がない」「口内炎」「貧血」「皮膚炎」「脱毛」「傷が治りにくい」「身長の伸びが悪い」などの症状が見られる場合を「亜鉛欠乏症」という。

「こんな疾患、聞いたことがない」という人も多いだろう。しかし、「亜鉛欠乏症は決してまれではない」と指摘するのが帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科の児玉浩子教授だ。

■一昔前は診断すら行われていなかった

 認知度が低いのには理由がある。ひとつは、教科書や論文に亜鉛欠乏症の記載がほとんどなく、医師の大部分が亜鉛欠乏症の鑑別診断ができなかったこと。もうひとつは、これまで治療薬がなかったこと。亜鉛欠乏症を疑い、検査で亜鉛の不足が確認できても、別の疾患に承認されている薬を用いるなどしか手の打ちようがなかった。それゆえに、そもそも検査すら行われていなかった。

「薬の登場で亜鉛欠乏症の認知度が高まれば、ほかの治療法でうまくいかなかった患者さんにも、症状の改善が期待できます」(児玉教授)

 亜鉛欠乏症は、年代によってよく見られる症状が異なる。乳幼児で多いのが皮膚炎、体重・身長の増加不良。小児では低身長、食欲不振。成人・高齢者では味覚異常、食欲不振、性腺機能不全、貧血、骨粗しょう症、傷の治りの遅さ、感染症のかかりやすさ。また、妊婦では貧血や食欲不振が表れる。

 亜鉛の効果としては、ひどいおむつかぶれや皮膚炎の乳幼児が、亜鉛投与のみで劇的に症状が改善し、体重も増加したケースが報告されている。また、低身長の小児に亜鉛を6カ月投与したところ身長が伸びた。一方、未治療群では身長はほぼ変わらなかった。

 亜鉛欠乏症で味覚障害を起こしている例では、改善率(治癒+有効)は95%以上。ほかに主原因があって味覚障害も伴っている例でも改善率は85%以上だった。口内炎、脱毛、2型糖尿病、性腺機能低下などにも効果があることが、実験で確認されている。

■食事療法だけでは改善しない

 亜鉛欠乏症のリスクが高くなるのは、次の場合だ。まず、亜鉛の摂取量の不足。菜食主義者、低栄養、高齢者が該当する。次に、慢性肝障害、炎症性腸疾患、フィチン酸(穀類・豆類の外皮に多い)の過剰摂取による亜鉛吸収の低下。さらに、妊娠やスポーツによる亜鉛の必要量の増加だ。

 また、糖尿病や腎疾患、ある種の薬の長期服用による亜鉛の排泄の増加も関係している。“ある種の薬”とは、関節リウマチ、パーキンソン病、うつ病、糖尿病、甲状腺機能亢進症など。これらの薬の服用は高齢者に多く、症状があっても「年のせい」と思われていることが珍しくない。

 亜鉛は牡蠣などの食品にも含まれている。食生活の改善をすれば、薬は不要ではないかとも思うが――。

「食事療法では改善が難しい」(児玉教授)

 牡蠣の亜鉛含有量は5個(60グラム)で7・9ミリグラム。一方、亜鉛欠乏症の治療で効果的な亜鉛の量は、成人で1日50~100ミリグラムであり、食事で日々取るのは実質不可能だ。

 言うまでもないが、今回の薬はサプリメントではないので、医師の処方箋が必要。重篤な副作用として、ほかの亜鉛含有製剤の報告例から、銅欠乏症の恐れが挙げられている。また、服用中は、定期的な血中亜鉛濃度の検査も行われる。

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