有名病院 この診療科のイチ押し治療

【早老症】千葉大学医学部付属病院/糖尿病・代謝・内分泌内科(千葉県千葉市)

千葉大学医学部付属病院・横手幸太郎教授
千葉大学医学部付属病院・横手幸太郎教授(提供写真)
教科書で病気は知っていても診断できる医師は少ない

 実年齢と比べて、急速に老化が進んでいくように見える「早老症」。その代表的疾患「ウェルナー症候群」(難病指定)は、特に日本人の発症頻度が高い。世界で報告されている患者の6~8割が日本人で、国内の推定患者は約2000人。しかし、現在確認されている国内患者は200人程度。多くが見過ごされていると考えられている。

 同科のウェルナー症候群の診療実績は約30年になり、症例や経験が世界で最も豊富な施設として知られる。現在、国内の10%(約20人)の患者を診ている。同科の横手幸太郎教授が言う。

「この病気は、WRN遺伝子の変異により発症する遺伝性の早老症です。20歳以降から白髪や脱毛、かん高くかすれた声、腕や脚の筋肉がやせ、皮膚が硬く薄くなり、深い傷ができやすく、治りにくくなるなどの兆候がみられます。両側性の白内障も早い人では20代、99%は30代までに発症します」

 糖尿病や脂質異常症になる患者も多い。しかし、これらの症状は特有の症状ではないため、患者はリウマチ科、糖尿病内科、老年科、皮膚科など、それぞれの診療科を別個に受診している可能性が高い。ウェルナー症候群と診断された患者を複数診ているのは全国でも同科を含め、3施設ほどしかないという。

「医師は教科書でこういう病気があることは知っていても、患者さんは白髪があれば染めるし、脱毛もカツラを着けてしまえば分かりません。それに有病率が5万~6万人に1人なので知名度が低く、診断できる医師が少ないのです」

 そのため横手教授らは、世界に先駆けて「診断・診療ガイドライン」(2012年版)を作成。現在、唯一の手引書として活用されている。確定診断は、最終的には遺伝子検査が行われるが、国内の大学病院で実施しているのは同院のみ。全国から検体(血液など)が送られてきており、ここ4~5年で50症例が確定されているという。

「早期診断が重要なのは、この病気の2大死因として動脈硬化による『心筋梗塞』や『悪性腫瘍(皮膚がん、骨肉腫、甲状腺がんなど)』の合併が多いからです。足の傷による難治性皮膚潰瘍によって切断する患者さんも少なくありません。早く診断がつけば、それらの合併症の予測がつき、早くから対策がとれるのです」

 患者の6割は40歳までにインスリン抵抗性の糖尿病を発症する。インスリン注射が効かないことが多いが、その場合にはチアゾリジン系の飲み薬を使えば改善が可能。足の難治性皮膚潰瘍の予防のため、患者の3人に2人は処方されたオーダーメードの靴を使用しているという。

 現時点でウェルナー症候群の根治療法はなく、かつては平均寿命が40代半ばと言われていた。しかし近年は、適切に合併症の治療をすれば60歳以上でも存命の患者は増えているという。

「ウェルナー症候群では、通常では100人に1人しか出ない足のアキレス腱の石灰化が8割の人に見られます。それに30代で白内障になったら発症を疑うべきです」

■データ
1874年に千葉、登戸、寒川の有志の拠金により共立病院として設立。
◆スタッフ数=常勤医師11人
◆初診外来患者数(2016年)=1010人
◆ウェルナー症候群の患者数=約20人