数字が語る医療の真実

コレステロール摂取量が多いとがんになりやすいは本当?

何事もほどほどが一番
何事もほどほどが一番(C)日刊ゲンダイ

 今回はコレステロールとがんの関係について紹介しましょう。

 コレステロールは動物性脂肪のひとつです。食生活の西欧化により、コレステロールを含む動物性脂肪の摂取が増えています。それに伴ってがんも増加しているのではないか、という考え方が一般的かもしれません。事実、動物性脂肪の摂取が増えると大腸がんが増えることが示されています。こうした事実からすれば、コレステロールの摂取により大腸がんを含む多くのがんの増加が予想されます。

 しかし、大腸がん以外で動物性脂肪との関連がはっきりしているがんは意外にありません。

 以前は乳がんも動物性脂肪の摂取と関連しているという報告がありましたが、最近の報告では「はっきりした関係がない」というものがほとんどです。

 すべてのがんと総コレステロールとの関連を見た研究は多くありますが、その大部分は「低コレステロールの人でがんによる死亡が多い」ことを示しています。私自身が関わった日本人の研究でも、総コレステロール140~160mg/dlの人に比べて140未満の人でがんによる死亡リスクが高いという結果です。男性では1・66倍、女性でも1・44倍がん死亡が多くなっています。

 ただ、この結果の解釈には注意が必要です。検査の時点でがんのために栄養状態が悪化し、結果としてコレステロールが低くなっている可能性もあるからです。そこで、そうした影響を避けるために、がんのためにコレステロールが低いような人は5年以内に亡くなってしまう可能性が高いことを考慮し、研究開始から5年以内に亡くなった人を除いた分析も行っています。結果は、コレステロールの低い人でがんによる死亡が多く、コレステロールが低いためにがんが多い可能性も否定しきれていません。

 コレステロールの取りすぎは問題です。しかし、少なすぎるのもだめなようです。ほどほどのコレステロールが案外一番いいのかもしれません。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。