がんと向き合い生きていく

科学的根拠のある代替療法はない

都立駒込病院名誉院長・佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 かつて「カニの甲羅ががんに効く」と喧伝され、ブームになったことがありました。そのカニの甲羅を販売している男性(当時50歳)の治療を担当したことがあります。直腸がんが肺にたくさん転移して、抗がん剤治療をするために私が勤務していた病院に入院したのです。

 その男性は、病室で他の患者さんに「みなさんのがんが消えます」などと宣伝文句を口にしながら、カニの甲羅を販売し始めました。もちろんすぐにやめていただきましたが、抗がん剤の点滴を受けながら、カニの甲羅を売ろうとしている姿に何か哀れを感じました。

■治療法がないと言われた患者から決まって尋ねられるが…

 以前、一緒に働いていた女性(当時45歳)との悲しい思い出もあります。乳がんが再発し、がんが胸壁から頚部にかけて進んだことで気管と食道を締め付けるようになり、食事が通らなくなって入院されました。

2 / 4 ページ

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。