Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

がん治療にもリハビリが欠かせない理由

なるべく体を動かす
なるべく体を動かす(C)日刊ゲンダイ

 ケガや脳卒中などで体の機能が障害されたときは、リハビリが欠かせません。実は、がんと向き合う上でも、リハビリが大切です。

 がんで入院中のリハビリは、2010年に保険適用となり、全国約400のがん診療拠点病院のうち8割で行われています。問題は退院後で、外来リハビリには保険が適用されず、やるかやらないかは病院次第なのが実情。外来リハビリは、がん拠点病院のうち4分の1程度でしか行われていません。

 がんになると、痛みやだるさなどさまざまな不調に悩まされます。治療に伴う後遺症や合併症も少なくありません。そんな不調は退院後も続くことがあるため、その改善にリハビリが欠かせないのです。

 たとえば、食道がんで胸を開いて食道を切除すると、肺活量は手術前の60%、運動能力は80%に低下。食べ物をのみ下す嚥下機能も悪化して食事が不自由になり、体重も減りやすい。それらの機能の回復に必要なのがリハビリです。

■退院後の「外来」実施は拠点病院でも4分の1

 退院後も適切な運動などのリハビリを続けると、それらの機能は1年ほどで元に戻るといわれています。

 食道のほか、胃や大腸、肝臓、膵臓などの消化器がん、肺がん、咽頭や喉頭、口腔、舌などの頭頚部がん、そして乳がんなど多くのがんにリハビリが必要です。では、どんなリハビリが必要なのでしょうか。

 手術前後の代表的なリハビリのひとつに、「呼吸リハビリ」があります。手術の痛みや麻酔などの影響で呼吸が浅くなると、痰を思うように排出できず、肺の奥にたまって肺炎のリスクが高まります。それを防ぐのが呼吸リハビリで、手術前に腹式呼吸の方法をマスターしておくのです。

 考え方の大前提として手術後は、なるべく早くベッドを離れ、できる範囲で体を動かすこと。抗がん剤や放射線の副作用などがつらくても、寝たきりは避けます。つらいからといって長く動かないでいると、筋力が低下し、最悪の場合、寝たきりを余儀なくされる廃用症候群になりかねませんから。

 抗がん剤や放射線の治療を受ける場合、リハビリとしての運動は治療と並行して行うのが、より効果的。医師や理学療法士、作業療法士などが、患者さん一人一人の状態に合わせてメニューを組みます。一般に、少し汗ばむ程度の強度で、20~30分、週に3~5回行うのが理想といわれています。

 運動は、がんを予防する効果も高い。運動は、がん予防にもリハビリにも大切なのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。