がんと向き合い生きていく

早期ではほとんど症状が表れない 食道がんの知識と生存率

都立駒込病院名誉院長・佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 案の定、内視鏡検査で上部食道にがんが見つかり、入院となったのです。

 手術を受ける前に、まずは衰えた体力をつけなければなりません。栄養状態をよくするため、左上胸部から中心静脈に管を入れ、太い静脈から高カロリーの栄養剤を投与して体調を整えました。

 ある程度の体力を取り戻したあと、約10時間の手術が行われました。

 頚部リンパ節の郭清と食道がんの切除後、胃を持ち上げての食道再建が行われました。術後、肺炎を起こすトラブルが起こりましたが、それを乗り越え、病状が落ち着いたところで放射線・化学療法に臨みました。

 現在、Sさんは「たばこも酒も、あんなもの、全く欲しくない」と笑って話されます。すでに2年が経過し、痩せたままですが再発なく過ごされています。

 食道は口から胃に食べ物を送る管で長さが約25センチあります。食事が通過するところですから、食道がんでは、「ものがつっかえた感じがする」「胸焼けがする」といった症状が表れます。しかし、早期がんの場合はほとんど症状がないことが多いので、それだけで安心はできません。

2 / 4 ページ

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。