明細書が語る日本の医療

膵臓がん手術のピークは70代 その後に減少する理由は…

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 男女の年齢別手術件数と新規患者数・死亡数を〈表〉にまとめました。他のがんと同様、若年者が膵臓がんにかかる可能性はかなり低く、とくに20代・30代では、まれなケースと言っていいでしょう。会社の同僚や高校・大学の同窓生で、40代までに膵臓がんにかかったという話はほとんど耳にしたことがないはずです。また、死亡数も限られています。

 患者数が増えてくるのは50代に入ってから。といっても、50代の男性10万人当たり23人、同じく女性10万人当たり13人程度です。膵臓がんを心配して40代、50代で健診を受ける人が大勢います。とくに膵臓がんの腫瘍マーカーは、血液検査で簡単に測定できることから、健診のオプションに組み込んでいる会社もあります。しかしこうした数字を見る限り、あまり神経質に考える必要はなさそうです。

 本格的な膵臓がん年齢は60歳を越えてから。男性のピークは70代で、2012年において約6000人の新規患者が出ています。一方、女性のピークは80代以上になっています。新規患者の実に4割以上がこの年齢での発症です。

 注目すべきは死亡数です。男女とも80代以上では、死亡数が新規患者数を上回っています。膵臓がんが見つかったのは70代、しかしその後何年か生き延びて80代で亡くなった人が結構いたことを示しています。他の年齢を見ても、膵臓がんと診断されてから、比較的長期にわたって生存できる人が(具体的な数字までは出せませんが)意外と多そうだ、ということが分かります。

 手術件数のピークは男女とも70代。男性は新規患者の約6割、女性は約5割が手術を受けた計算になります。しかし80代に入ると、手術は一気に減ります。とくに女性では、1割強しか受けていません。

 膵臓がんは腹腔鏡手術が難しいため、大掛かりな開腹手術になることが多いのです。80歳を越える高齢者にとってはかなりの負担で、かえって寿命を縮めることになりかねません。患者の体力が十分にあること、他の病気がないことなど、よほど条件が整わない限り、無理はしないということです。新規患者数の男女差はさほど大きくないのに手術件数の差が大きいのは、こうした事情によるものです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。