注目集まる「亜鉛」がこれからの肝硬変治療を変えるのか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 低亜鉛血症の国内初の薬が登場し、「亜鉛」に注目が集まっている。それによって今後、治療が大きく変わるかもしれないのが肝疾患だ。

「亜鉛不足と味覚異常を関連付ける人は多いが、それは亜鉛不足の弊害の氷山の一角。亜鉛はタンパク質の維持、酵素の活性など体内でさまざまな重要な役割を担っています」

 こう指摘するのは、大阪国際がんセンター副院長・臨床研究センター長の片山和宏医師。特に注目するのは、肝疾患との関係だ。

 肝疾患は、肝臓に炎症が起こる「慢性肝炎」から、線維化が進行した「肝硬変」に移行。タンパク・エネルギー代謝異常が起こって肝機能低下(肝不全)による諸症状が表れ、重症化すれば死に至る。

「非常に問題なのが、タンパク代謝の異常です。アルブミン値が指標になるのですが、3・5g/dlを下回ると生命予後が著しく悪くなるのです」

 各臓器では生きていく上で欠かせないホルモンなどを合成しているが、その合成に必要な材料を供給しているのが肝臓だ。このうち肝臓のタンパク代謝は、タンパク質合成に関わる働きのこと。そしてタンパク代謝で重要な役割を果たすのが、亜鉛だ。

「タンパク質が合成される過程で有毒なアンモニアが産生され、尿素回路という酵素群で無毒化されます。ところが、この尿素回路は亜鉛が欠乏すると正常に機能しない。するとアンモニアが処理できず血中で増え、結果的にタンパク質を合成する能力(タンパク代謝)が低下するのです」

■血中濃度維持で肝臓がん発症を抑制

 つまり、タンパク代謝異常を示すアルブミン値3.5g/dl未満は、亜鉛欠乏を意味している。

 肝疾患では、亜鉛がどれくらい欠乏しているのか? 片山医師は、肝硬変をA~Cでランク付けし、その中でもコントロール良好な人をA、状態が悪く生命予後が平均半年~1年の人をCとして調べた。

 すると、A→B→Cと肝硬変の重症度が進むにつれ、亜鉛の値は低下。Aの一部だけが亜鉛の正常値の範囲に入ったが、BとCは亜鉛の正常値に「かすりもしない」レベルだった。亜鉛が欠乏している人は全体の65%、血中のアルブミン濃度が3.5g/dlより下の人は90%を占めた。

 肝疾患、特に肝硬変に至ると、亜鉛欠乏でアンモニアが増え、肝臓のさまざまな機能が低下する。

 さらに、高齢そのものが亜鉛欠乏を招き、やはり肝機能を低下させる。肝硬変に高齢が重なると、肝機能低下の度合いは加速度的に増すと容易に考えられる。

 つまり、肝機能低下と亜鉛欠乏は密接な関係にあり、肝機能低下を抑制するには、亜鉛が不可欠なのだ。ところが、亜鉛の必要性は認識されているものの、その根拠を示す研究のエビデンスレベルが低く、これまで亜鉛を用いた治療は推奨されてこなかった。

「そこで、エビデンスレベルの高い根拠を作成するために、臨床試験を行ったのです」

 高アンモニア血症、低亜鉛血症がある肝硬変患者18人を対象に、「亜鉛投与群」と「プラセボ(偽薬)投与群」に分け、3カ月間調べた。すると、亜鉛投与群では亜鉛の血中濃度は上がり、アンモニアの値は30%低下した。

 また、年単位で「長期投与群」と「そうでない人」を比較すると、血中亜鉛濃度80μg/dl以上を維持した例では、肝臓がんの発症が有意に少なく、亜鉛濃度が低ければがんの再発が多かった。さらに肝臓の線維化に対しても、動物実験だが亜鉛投与によって抑制された。

「これらの結果から、低亜鉛血症のある肝硬変は亜鉛補充療法を考慮すべきだと考えられます」

 主治医に相談を。

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