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すい臓がん手術 根治手術は関東だがQOLアップ手術は関西

関西はがんとの共存
関西はがんとの共存(C)日刊ゲンダイ

 各病院の手術件数はDPC公開データに載っています。膵臓がんは「膵臓・脾臓の腫瘍」という項目で、脾臓と一緒の扱いになっています。しかし、脾臓にがんができることは、ほとんどありません。なぜか心臓と脾臓は、がんにかからないのです。したがって手術件数は、すべて膵臓がんと考えて構いません。

 DPCデータには、膵臓がんの根治を目指した切除術と「その他の手術」の件数が載っています。〈表〉にそれぞれの手術件数が多い病院をまとめました。

 膵臓がん手術で怖いのが合併症です。膵臓はインスリンだけでなく消化酵素も生産しています。それが術後10~20%の確率で、切り口から漏れてしまうことがあります。消化酵素が周囲の組織を「消化」してしまうのです。最悪の場合、漏れをふさぐための再手術が必要になります。また、患者のQOLを改善する目的で、さまざまな手術が行われています。それらが「その他の手術」にまとめられています。

 膵臓がんの手術はできるだけ実績の豊富な病院で受けるべきです。トップは「がん研究会有明病院」、2位が「国立がん研究センター中央病院」。がん治療の覇権を争うライバル同士です。膵臓がんの手術を行っている病院は少なく、全国でわずか295病院という状況です。その中で年間50件以上行っているのは、わずか25病院。そのうち9病院が東京、千葉、神奈川に集中しています。地方の人が実績のある病院で手術を受けようと思ったら、東京に出てくるのが確実です。

■関西はがんとの共存

 膵臓がん関連の手術では、「大阪府立成人病センター」(現・大阪国際がんセンター)がトップに立っています。同病院の膵臓がん手術はわずか20件なので、根治を期待する患者には少々物足りないですが、QOLの改善などを望む患者にとっては心強い存在になっています。ほかにも関西の病院がいくつか上位に食い込んでいます。関連手術の年間件数が50件以上の病院は全国で77病院あるのですが、そのうち16病院が関西です。

 膵臓がん手術は再発率が高く、手術による延命効果は限られているといわれています。無理に手術するよりは、余生をできるだけ元気に過ごせるほうがいいという、関西ならではの合理主義の表れかもしれません。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。