がんと向き合い生きていく

卵巣がんの75%以上は進行した状態で発見される

都立駒込病院名誉院長・佐々木常雄氏
都立駒込病院名誉院長・佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Kさん(50歳女性)は2カ月前から腹満感が強くなり、近くの病院を受診したところ、腹水がたくさんたまっていました。腹水を検査した結果、中にがん細胞があると告げられたそうです。

 しかし、どこからのがんなのかがわからず、「がん性腹膜炎、原発不明がん」として、私が勤務する病院に紹介されてきました。この時もたくさんの腹水があり、採血検査では、主に卵巣がんの腫瘍マーカーである「CA125」が高い状態でした。そこで、卵巣がんに準じての化学療法を行ったところ、腹水はまったくなくなりました。

 その後、婦人科での開腹手術により、卵巣やリンパ節などが切除され、卵巣がんであることが明らかとなりました。現在、Kさんは再発もなく過ごされています。

 Bさん(68歳女性)は「卵巣がん」と診断されてから10年になります。手術後5年経過したところで、時々下腹部痛があり、血液検査では腫瘍マーカーCA125が急上昇。CT検査にて腹膜に再発したことが明らかになりました。

 化学療法により腫瘍マーカーが一時的に低下しても、しばらくすると上昇することを繰り返し、それでも抗がん剤治療を3年間続けました。さらに、残ったリンパ節を手術、切除して、その後は再発することなく元気に生活されています。

■30歳を越えたら定期的な検診が大切

 卵巣がんは、早くて30代前半、おおむね40~50代の更年期に多く見られます。婦人科がんでは子宮がんに次いで多く、年間約1万人が罹患し、約5000人が亡くなっています。

 卵巣は骨盤内にあって初期の症状はほとんどなく、ある程度大きくなってから腹満感、腹痛、頻尿、下腹部に腫瘤が触れるなどの症状が出てきます。ただ、この症状は良性の卵巣嚢腫でも同じです。そのため、早期診断は困難で、75%以上は進行した状態で発見されます。ですから、30歳を過ぎたら定期的に婦人科の検診を受けることが大切です。

 卵巣がんは、診察、超音波診断、CT、MRI、血液検査の腫瘍マーカーなどで診断されますが、確定診断は組織検査によります。CT、MRI検査では、嚢腫なのか、充実性の腫瘍(固形成分でできた腫瘍)なのかを診断します。卵巣の腫瘍には良性のものと悪性のものがあり、手術で組織を切除しないと確定診断は難しいのです。

 診断後、がんの進行の病期により治療方針が決められます。手術が困難な場合、あるいは手術前に化学療法を行う場合でも、腹膜や転移巣の生検、腹水細胞診などで確定診断をします。

 卵巣がんの病理分類では悪性腫瘍の大部分は腺がんで、「漿液性腺がん」がその約75%を占めます。この場合は化学療法は効きやすいのですが、一方、「明細胞腺がん・粘液性腺がん」は化学療法が効きにくく、厳しい経過を取ることがしばしばです。

 病期は治療法を選択するためにも重要です。Ⅰ期は「卵巣に限局している」、Ⅱ期は「骨盤内に限局している」、Ⅲ期は「腹腔内に広がる」、Ⅳ期は「遠隔転移がある」場合です。

 手術は、①確定診断のため②病期確定のため③がんをできるだけ取り去るために行われます。基本的には両側卵巣付属器摘出、子宮摘出術、大網切除術、リンパ節郭清などがあります。そして、組織診断で化学療法が選択されます。がんが残るなど不完全な手術に終わった場合は、化学療法後に残存のがんを取り去るため再度手術を行うこともあります。また、Ⅲ、Ⅳ期では先に化学療法を行ってから効果を見て手術になる場合もあります。

 5年生存率はおおよそⅠ期80%以上、Ⅱ期70%、Ⅲ期30~40%以上、Ⅳ期20%です。特に再発例では治癒が困難な場合が多いので、やはり早期の治療が大切です。

 手術により両側の卵巣を切除することで、更年期障害に似た症状が出ます。ほてり、発汗、イライラ、だるさ、肩こり、頭痛など、人により異なります。リラックス、入浴、音楽など自分に合う方法を探すのも方法です。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。