明細書が語る日本の医療

肝臓がんの年齢調整死亡率 今世紀に入り男女とも3分の1に

肝臓がんの新規患者数などの表
肝臓がんの新規患者数などの表(C)日刊ゲンダイ

 肝臓がんは新規患者数、死亡数ともに現在5位につけています。他の臓器がんとは異なり、患者数は実数でほぼ横ばい、高齢化の影響を除いた年齢調整罹患率は減少しています。また、死亡数は実数で減少、年齢調整死亡率は激減中です。表に数字をまとめました。

 2012年の新規患者数は、男性約2万9000人、女性約1万5000人で、男女比は2対1です。肝臓がんは数種類に分類されますが、ほとんどが「肝細胞がん」。これは慢性肝炎、とりわけウイルス性肝炎によって引き起こされるもので、原因の60~70%がC型肝炎、15~20%がB型肝炎、残りがアルコール性肝炎などとなっています。

■感染対策の勝利 治療法の発達も寄与

 日本人のB型・C型肝炎の最大の感染源は、子供の予防接種における注射器の使い回しです。筆者も小学生時代に何度も経験しましたが、1本の注射器を4~5人に刺していたと記憶しています。当時、「1人目は痛いが、後になるほど針が滑らかになり痛みが弱まる」と言われていたのを覚えています。また、出生時に母子感染することもあります。近年は薬物中毒者による注射器の使い回しで感染するケースが多く、両方の肝炎とHIV(エイズウイルス)の3つに同時感染している人もいます。

 肝炎ウイルスが体内に入ると慢性肝炎を発症し、やがて肝硬変を経てがんになっていきます。最初の感染からがんになるまで20年から30年。ただしがんに至るのは、感染者のうちC型肝炎で約6~8%、B型肝炎では1~2%といわれています。

 いまでは予防接種の注射器の使い回しはまったく行われていませんし、抗肝炎ウイルス薬や母子感染対策などによって、肝炎患者自体が減ってきています。さらに、慢性肝炎患者の肝臓検診や肝硬変の予防なども向上してきたため、がんに至る人が減少しているのです。

 しかし、それ以上に年齢調整死亡率の低下は劇的です。今世紀に入ってから、男女とも3分の1に減っているのです。肝臓がんの治療技術の発達も寄与していると思われます。手術だけでなく「ラジオ波焼灼療法」といった、肝臓がんをピンポイントで焼き殺す方法が確立されたため、助かる人が増えたのです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。