独白 愉快な“病人”たち

俳優・真夏竜さん語る「進行性胃がんと闘って得たもの」

“尋常じゃない”痛みに舞台が終わるまで耐えた
“尋常じゃない”痛みに舞台が終わるまで耐えた(C)日刊ゲンダイ

 2004年秋に「進行性胃がん」で「余命半年」と宣告されたんですけれど、あれからもう13年経ちましたね(笑い)。

 当時、胃の痛みを感じながら舞台に出ておりました。稽古中から胃壁を指でつつかれるような違和感があり、近所の町医者に行くとレントゲンを撮られて「胃炎です」と診断されたんです。で、胃薬をもらって飲んでいましたが、まったく良くなりませんでした。

 その後、症状は「指でつつかれる」から「指で押される」に変わり、舞台の幕が開くころには「指でつねられる」になって、しまいには「ペンチでつままれる」くらいの痛みになりました。さすがに「これは尋常じゃない」と思いましたよ。でも、舞台を途中で降りるわけにはいかないので、終わるまで耐えたわけです。

 舞台が終わってすぐに大きな病院に行くと進行性胃がんと診断され、ステージ3Aという厳しい状態で「即入院」と言われました。こういうとき、よく「頭が真っ白になる」なんていいますけど、自分でも不思議なくらい冷静で「そうですか、しょうがないな」という印象でした。

■運命の分かれ道となった電話

 念のために受けたセカンドオピニオンでもまったく同じ診断だったので、「これでおしまいか」と覚悟しました。後から聞きましたが、妻は医師から「余命半年」と言われたそうです。ただ、サードオピニオンをどうするか考えていたちょうどその頃、たまたま篠田三郎さんの奥さんがそうとは知らずに電話をくださり、妻と話をする中で病院を紹介してくれることになったのです。いま考えれば、それが運命の分かれ道だったかもしれません。

 篠田さんとは“ウルトラマン兄弟”つながりで、家族ぐるみで親交がありました。紹介してくれた東邦病院に行くと、舞台で名古屋にいるはずの篠田さんが病院で待っていてくれたのには驚きました。院長先生とお知り合いだったようです。幸運にもその道でトップクラスの名医がいらっしゃって、特別なチームを組んで手術に当たってくれることになったのです。

 手術は、胃の3分の2の切除と、胃の代わりになるように小腸を切りとって胃につなげるというものでした。ほかにあまり例がないと聞きました。約8時間の大手術でしたが、いまもビールがおいしく飲めるのは、たぶん小腸が胃の代わりをしてくれているおかげです。普通、胃をとるとビールは炭酸がすごくて飲めなくなるらしいんですけどね。

 入院は12月8日から約1カ月間でした。ベッド生活も悪くなかったですよ。痛み止めの座薬を看護師さんに入れてもらうのが楽しくなっちゃって、座薬のベルをずいぶん鳴らしました(笑い)。

 3週間目にはラジオの仕事に行きましたし、お正月は3日間の一時帰宅も許されました。ただ、「食事は一口30~50回くらいよく噛んでください」との注意があり、自宅で大好きな刺し身のトロを何度も噛んでたら、噛み過ぎてなんだか気持ち悪くなっちゃって、数時間後には病院に帰りましたけど(笑い)。

■大病をして得たものは「終わりの覚悟」

「再発が怖い」と言われますが、あれだけの特別チームでとても好意的なケアをしていただいたので、これで再発なら仕方ないと思っています。いまも相変わらずお酒は飲むし、たばこもやめないのは、人生に後悔したくないからです。「あれが悪い」「これはよくない」と言われますけど、あくまで統計上の問題ですから、私は食べたいものを食べたいときに食べたい。それでダメでもしょうがないと思えますからね。

 ネガティブなイライラやストレスになる考え方のほうがよほど体に悪いと思っているんです。人は「生まれて」「生きて」「死ぬ」という3つの出来事の中で、自殺を選ばない限り「生きて」の部分だけが自分の意思でできることなのですから。

 大病をして得たものは「終わりの覚悟」です。生きていれば確実に「終わり」があるということはみんな知っていることですけれど、そこは遠い話でほとんど意識しませんよね。でも、大病をすると終わりを覚悟するんです。それは今日を生きて、明日生きるためにはいいことだと思います。

 芝居にも影響がありました。昔から「背伸びするな」とか「下手なりに一生懸命やればいい」と言われてきたことが実感できたのは大病をしてからです。背伸びして生き方や考え方を自分以外のところから引っ張ってきても、それは“作った芝居”でしかありません。自分の中にあるものから発信しないと伝わらないことに、やっと気づかせてもらった感じです。そういう意味では、病気に感謝しています。

 余談ですが、病気が発覚する前、大好きなワインの味や匂いが急に変わって受け付けなくなった時期がありました。いま思えば、それも病気の予兆だったのかもしれません。味覚や嗅覚が変わったら、注意したほうがいいかもしれませんね。

▽まなつ・りゅう 1950年神奈川県生まれ。1974年「ウルトラマンレオ」で主役デビューの後、テレビや舞台で活躍するほか、アニメや映画での声優やナレーションなど声の仕事も多数。ラジオ番組「民話の小部屋」(毎週土曜FMフジ)を担当している。東京・六本木のバー「かよ」でも定期的に民話語りライブを行っている。

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