明細書が語る日本の医療

肝臓がんの手術件数 トップは負担が少ないラジオ波焼灼法

数カ月で再生可能な部分切除は技術力が必要
数カ月で再生可能な部分切除は技術力が必要(C)日刊ゲンダイ

 肝臓がんの手術は、大まかに4種類あります。開腹による切除、腹腔鏡による切除のほか、「マイクロ波凝固法」と「ラジオ波焼灼法」が用意されています。

 2014年度の件数を〈表〉にまとめました。もっとも数が多いのはラジオ波焼灼法。がんの中に直径1.5ミリの電極を差し込み、先端から周波数450キロヘルツの電流を流して、がんを焼き固めるのです。体への負担が少なく切るよりも簡単なため、がんの大きさなどの条件が合えば、こちらが第1選択になります。マイクロ波凝固法はラジオ波の代わりにマイクロ波(電子レンジと同じ)を使うのですが、まだあまり普及していません。

 2番目に多いのが開腹手術による肝切除。肝臓はなくてはならない臓器なので、当然部分切除になります。肝臓には再生能力があるので、半分以上切り取っても数カ月で元のサイズに戻ります。しかし血管が多く出血しやすいため、切除には高度な技量が求められます。視野が限られる腹腔鏡手術は難易度が高く、開腹手術と比べてかなり少なめです。

 ほかに「エタノール局所注入法」がありますが、分類上は手術ではなく「処置」に入っています。超音波装置で確認しながら注射針をがんに差し込み、純度100%のエタノール(酒類のアルコールと同じ)を注入するのです。高濃度のエタノールには、タンパク質を固めて細胞を死滅させる働きがあります。がん細胞を「急性アルコール中毒」で殺すわけではありません。

 手術数の合計は新規患者数とほぼ等しい数字になっています。しかし、単純に「患者全員が手術を受ける」と結論づけるのは早計です。肝臓は他からの転移も多いのです(転移性肝臓がん)。「肺がん」「胃がん」「大腸がん」「乳がん」などから転移してきます。転移がんも、可能ならできる限り手術を行います。

 一方、新規患者数は原発性肝臓がんの患者です。原発性肝臓がんは再発しやすいため、2回以上の手術を受ける患者も少なからずいます。転移・再発がんの手術件数までは分かりませんが、公表されている数は、それらを含めたものです。ですから逆に、発見時にはすでに手遅れで、手術を受けられない人も大勢いるわけです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。