明細書が語る日本の医療

肝臓がん手術なら若者は「切除」 高齢者は「ラジオ波焼灼」

(C)日刊ゲンダイ

 肝臓がんの男女比は2:1。そこで男性の年齢別手術件数を、新規患者数・死亡数と合わせて〈表〉にまとめました。表の「切除術」は開腹と腹腔鏡の合計、「ラジオ波等」はラジオ波焼灼法とマイクロ波凝固法の合計です。

 20代以下の患者は遺伝などの要因によるもの。特に10代以下は小児がんのひとつとして医療費助成の対象になります。小児がんでも可能な限り手術を行いますが、NDB公開データではゼロ件となっていました。30代、40代の患者は少なく、増えるのは50代から。本格的な肝臓がん年齢は60代からで、70代がピークになっています。

 死亡数は患者数の増加とともに増えていきますが、50代までは新規患者数の半分以下に抑えられています。比較的若年の肝臓がんは、治癒率・延命率が高いということです。80代では死亡数が新規患者数を上回っています。70代以前に肝臓がんを発症した患者の中に、80代まで延命して亡くなった人が(正確な数字は分かりませんが)いたわけです。

 手術件数にはいくつかの特徴が見られます。

 40代から70代までの手術件数の合計が、新規患者数とほぼ同じか、上回っています。件数には転移がんや再発がんの分も含まれているため、このような逆転が見られるのです。

 また、年齢が上がるにつれて切除術の割合が減り、ラジオ波等が増えていきます。60代ではほぼ半々、70代ではラジオ波等が逆転しています。

 切除術かラジオ波かは一長一短。有効性に注目すると、5年生存率で切除術のほうが有利になっています。

 日本肝癌研究会の追跡調査によれば、腫瘍数3個以下・腫瘍径3センチ以内の肝がんで、切除術の5年生存率が71.1%だったのに対し、ラジオ波は61.1%でした。

 つまり切除術のほうが10ポイントも有利ということです。まだ前途のある若い患者に切除術が多く行われるのは、当然のことでしょう。

 しかし高齢の患者や他の病気を持っている患者にとっては、切除術はかなり大きな負担になります。手術で逆に寿命を縮めてしまうことさえあり得ます。その点、ラジオ波は体への負担が軽く、しかも再発しても何度もできるので、安心して行うことができるのです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。