Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

非喫煙の中村獅童さん公表 肺腺がんはX線で見つけやすい

初期の肺腺がんと公表
初期の肺腺がんと公表(C)日刊ゲンダイ

「たばこを吸わない人でも、肺がんになるのか」

 早期の肺がんを公表した歌舞伎役者の中村獅童さん(44)について、そんな声が上がっているようです。芸能関係者によれば、中村さんはたばこを吸わないとのこと。一般の方には、肺がんはたばことの結び付きが強い印象があることから、冒頭のような疑問が浮かぶのでしょう。

 中村さんの肺がんは、日本の肺がん事情を象徴していますから、詳しく解説します。肺がんは、大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分けられます。中村さんのタイプは、非小細胞肺がんで、その中に含まれる肺腺がんです。肺腺がんは今や、肺がん全体の5~6割を占めます。最も多いタイプで、喫煙との関係が薄いのです。

「奇跡的といわれるほどの早期発見で、すぐに手術をすれば完治できる」

 主治医にされた、この説明も象徴的です。肺腺がんは、肺の奥にできやすくたばこの影響を受けにくいのですが、一方で胸のX線検査で発見しやすいのも特徴。中村さんは人間ドックを「毎年、定期的に受けている」ことが、不幸中の幸いになりました。

 中村さんの心がけをぜひ、読者の皆さんも見習ってほしいと思います。実は、肺がん全体では、7割は手術ができない進行した状態で見つかるのが現実。残念ながら、ラッキーに恵まれないケースの方が多いのです。

■検診で見つかる方が長寿

 では、どうするか。人間ドックでなくてよく、企業健診やがん検診など検診を受けること。胸のX線検査は、これらの検診に含まれていることがほとんどですから。自治体のがん検診なら、安価に受けられます。

 がんが検診で見つかると、そうでない人に比べてより長生きできるのも大きな特徴です。

 肺がん全体で見ると、5年生存率は検診で見つかったグループが45・8%で、検診以外で見つかったグループが16・3%。3倍近い差があるのです。

 検診以外というのは、たとえば自覚症状がつらくて受診したようなケース。そういう人は肺がんがより進行していることがうかがえますが、検診で見つかる肺がんは早期が多いということ。その違いが、このデータに表れているのです。

 胃がん、大腸がん、乳がん、子宮がんなどでも同じことがいえます。5大がんすべてで、検診で見つかる方が長生きできるのは明らかなのです。ところが、がん検診の受診率は3~4割。中村さんのラッキーを人ごとのように思わず、ぜひ検診を受けること。その心がけが、皆さんの健康を守るのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。