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【がん患者の心のケア】聖路加国際病院・リエゾンセンター(東京都中央区)

聖路加病院
聖路加病院(C)日刊ゲンダイ
呼吸瞑想でネガティブ思考の連鎖を断ち切る

 同センターは、心のケアをする「心療内科」「精神科」「精神腫瘍科」からなる。

 中でも、がん患者を対象とする精神腫瘍科では、全国でも珍しい「マインドフルネスを取り入れた心理療法」を行っている。どういうものなのか。同センター長で精神腫瘍科の保坂隆部長(顔写真)が言う。

「1960年代、米国ではベトナム戦争が長引いて不安定な時代でした。それで仏教瞑想が輸入され、仏教の要素が取り除かれて“マインドフルネス瞑想”が開発されました。近年では、米企業のグーグルやアップルなどが社員のパフォーマンス向上の目的で取り入れていて、日本でもいま逆輸入されて話題になっています」

 つまり、マインドフルネスとは「瞑想」のこと。米国では、その後「マインドフルネスストレス低減法」や「マインドフルネス認知療法」というプログラムが開発され、医療やビジネスなどの現場で実践されているという。

 では、なぜがん患者の心のケアに有効なのか。がん患者の多くは、告知されたときから「ネガティブ思考」に陥り、常に「不安」「抑うつ」にさいなまれるという。

「がんになると患者さんの思考パターンは、『がんになった』→『なぜ、なったのか』→『再発が心配』→『死ぬのは嫌だ』→『がんにさえならなければ』→『でも、なった』などと負の連鎖を起こします。それを断ち切るためには、何かに集中させるのがいい。その手段のひとつとして瞑想を用いるのです」

 不安や抑うつ気分に対しても同様。瞑想によって何かに集中することで、一時的にがんのことを考えないようにするのだ。

■毎月100人以上が参加

 瞑想には「食べる瞑想」や「歩く瞑想」など、さまざまな行為や行動が応用できるが、保坂部長が最もよく用いるのはマインドフルネスの基本となる「呼吸瞑想」だ。

「具体的には、意識を呼吸することのみに集中してもらいます。冷たい空気が鼻の中に入っていき、暖かい空気が鼻から吐き出される。それを体で感じ取る。しかし、それでも余計な雑念が浮かんできます。そうしたら、さらに集中力を高めるように、体で感じ取っている呼吸を頭の中で実況中継をするように指導しています」

 1回につき10分くらいやるのが目安。1日に何度もやればやるほど、うまくできるようになっていくという。同科がマインドフルネスを用いた心理療法を導入したのは3年ほど前だ。

「呼吸瞑想がいいのは、何も使わず、簡単でいつでもどこでもできるからです。がんになってショックを受けているときは、何をするのも面倒になります。がんのことを理論的に考えたい人は、テキストなどを使う従来の認知療法でもいいと思います」

 瞑想の効果はどうか。同科では院内のホールで毎月1回、「マインドフルネス瞑想会」を開催している。がん患者の参加者は常時100人(7~8割がリピーター)を超える。この参加者数をみても効果は実感しているという。瞑想会には、同院の患者でなくても参加できる。

■データ
聖路加国際大学の病院。
◆スタッフ数=常勤医師6人(心療内科2人、精神科3人、精神腫瘍科1人)
◆年間初診患者数(2015年度)=約1030人(うち精神腫瘍科の患者は約200人)