肺がんのサインかも…「咳」を正しく見極めて正しく治す

咳正しく見極めること
咳正しく見極めること(C)日刊ゲンダイ

 たばこのフィルターに穴を開けた、いわゆる「軽いたばこ」が、ここ数十年の肺腺がん増加の要因と指摘する論文が英医学誌に掲載された。18日には歌舞伎俳優の中村獅童(44)も肺腺がんを公表。一般的な症状として「治りにくい咳」があるが、どう対処すべきか?

「たかが咳、されど咳」と言うのは、昭和大学病院呼吸器・アレルギー内科の相良博典教授。ありふれた症状ゆえに放置しがちだが、重大病のサインの可能性がある。

 まず、専門医を受診するタイミングは「3週間」と覚えておこう。

 咳が続いても3週間くらいまでなら風邪などのウイルス感染がほとんどで、一般のクリニックでも対応できる。しかし3週間を超えると、「肺がん」「咳喘息」「COPD」(慢性閉塞性肺疾患)、呼吸器疾患ではない「逆流性食道炎」などが疑われる。呼吸器内科医でなければ鑑別が難しい。

「ただし咳喘息の診断には注意してください」

 そう相良教授が指摘するのは、咳喘息の誤診が増えているからだ。風邪の後などに気道が狭くなり、もともと持っていたアトピー素因や気道の反応性(気道が狭くなりやすい)が高まり、刺激に過敏になって咳が続くのが咳喘息。3分の1が喘息に移行するといわれるため早期治療が肝要だが、最近は「治らない咳=咳喘息」と安易に診断される傾向があるという。

「咳は、痰が絡む湿った咳とコンコンという乾いた咳に分けられ、咳喘息は後者。確定診断には、症状がいつ起こりやすいかという時間的な特徴、炎症を表す呼気中の一酸化窒素の量を測るNO測定、痰や血液の好酸球の量の測定、気道の反応性などが必要です」

 もしこれらが行われておらず、処方薬(気管支拡張薬)を1週間服用しても症状が改善しなければ、咳喘息ではない可能性が高い。

■喘息の薬は進歩が目覚ましい

 咳止め薬(鎮咳薬)をすぐ処方された時も注意が必要だ。

「咳に詳しくない医師は『咳が出たら止める』治療をしがちですが、これが非常に問題。特に痰が絡む咳は、咳が痰を出しやすくしているので、絶対に鎮咳薬を処方してはいけないのです」

 薬の進歩が目覚ましいのが喘息だ。「発作が起きたら抑える」治療は過去の話で、今は日常的に薬を吸入または服用し、発作を起こさないようにする。正しく治療を受けていれば、喘息を起こさず社会生活を送れる。

「ところが、薬の継続率はかなり低い。喘息は半永久的に治療を続けなくてはなりません。治療の意味をしっかり認識していないため、症状が鎮まれば『治った』と思い、薬をやめてしまう。実際は軽い炎症が続いており、疲労や風邪などちょっとしたきっかけで発作を起こす恐れがあります」

 喘息で使う吸入ステロイドへの抵抗感もいまだ強いが、吸入なので作用は局所的。飲み薬と比較しても量は100分の1と少なく、安全性は保証されている。

 喘息患者には、正しく薬を飲んでいるのに症状がよくならない高齢者がいる。この場合、喘息の薬である気管支拡張薬が逆流性食道炎を引き起こしているケースもある。

「呼吸器内科医であれば、それも念頭に置いて治療法を考えます」

 喫煙者で40歳を越えていれば、咳がひどくなくてもCOPDの検査を受けるべき。長年の喫煙習慣で肺の中の肺胞が壊れ、進行すれば呼吸困難になって寿命を縮める。

「咳や息苦しさなどの症状があるはずですが、その状態に慣れてしまって自覚していない人が大半です。治療を受けている人は3%ほどです」

 なお、ここで挙げた内容は、「治らない咳」で患者が速やかに受診し、MRIや超音波で肺がんなどがないことを確認していることが大前提だ。

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