明細書が語る日本の医療

肝臓がん手術件数トップの和歌山県は最下位・埼玉県の4倍

(C)日刊ゲンダイ

 肝臓がんは西日本に多いことが知られています。とりわけ兵庫・大阪・和歌山を結ぶ線から西側が、肝臓がんの多発地帯です。

 都道府県別の年齢調整死亡率(人口10万人当たりの1年間の肝臓がんによる死亡人数で、とくに高齢化の影響を除いた数字)から、その違いがはっきり見て取れます。ワースト1位こそ青森県(7.7)に押さえられているものの、2位以下は佐賀県(7.6)、鳥取県(7.4)、福岡県(7.4)、宮崎県(7.4)の順。対するベスト1は滋賀県(3.4)、次いで新潟県(3.5)、山形県(3.6)、富山県(3.9)の順になっています。

 死亡率の高さは、肝臓がん患者の多さを反映しています。そのため、肝臓がんの手術件数も「西高東低」の傾向が見られます。〈表〉に手術件数(人口10万人対)の多い県、少ない県をまとめました。

 総じて西日本の数字が高く、東日本の数字が低い傾向がはっきりと見て取れます。また手術件数の多い県は年齢調整死亡率が高く、件数の少ない県は年齢調整死亡率も低めの数字が並んでいることが分かります。

 ただ東京都は、がん治療に強い大病院が集中しているため、手術件数が多めに出ています。また、青森県は年齢調整死亡率が最悪であるにもかかわらず、手術件数はかなり少なめです。青森県は肝臓がんに限らず、他のほとんどのがんでも、手術数が少ない傾向が見られます。

 手術件数トップは和歌山県(63.2)。全国平均の2倍近くに達しています。最下位は埼玉県(15.6)。その差はなんと4倍です。ただ年齢調整死亡率の差は、そこまで大きくありません。

■「西」は根治を目指さずその都度手術

 実は西日本は肝臓切除手術の件数は少なめで、ラジオ波焼灼法など体にマイルドな治療が多めに行われているのです。対する東日本では、逆の傾向が見られます。

 西日本はウイルス性肝炎の感染者が多く、肝臓がんの主な原因になっているのです。ところがウイルス性の肝臓がんは再発率が高いため、根治を目指した切除術が必ずしも有効ではありません。むしろ、大きくなった腫瘍(がん細胞の塊)をその都度ラジオ波などで焼き殺すほうが体への負担も軽く、効率的なのです。そうした理由が、手術件数の多さにも反映されているわけです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。