「がんと仕事」厳しい両立

支援制度はあっても…働き続けた人の1割が会社を変えた

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 がんと闘いながら仕事を続けることは簡単ではない。早期発見で切除できれば根治も可能になってきているが、手術後も放射線治療などで通院が必要だ。一筋縄ではいかない病巣を叩くには、それなりに時間がかかる。同僚や上司の理解がなければ、闘病と仕事の両立は難しい。

■上司や社長の無理解で活用できないケースも

 なにしろ医者に「がん」と告げられた衝撃で働けなくなる人もいるのだ。がんの罹患時に正社員で、その後も仕事をしている人を対象にした三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「がん治療と仕事の両立に関する調査」によると、14%は罹患時の会社を辞めていた。最も多い理由は「特にない」(34.3%)だ。調査を担当した同社の矢島洋子主席研究員は、「治療をしながら仕事が続けられる可能性が高い人でも、がんの告知を受けたショックで、すぐに仕事を辞める決断をしてしまうことが少なくないようです」と指摘する。

 病状によっては、「体力面から就労が困難」(24.8%)、「治療・療養に専念する」(8.8%)と退社することもあるが、問題は「上司、同僚の理解・協力が少なかったため」(10.9%)、「職場から勧められたため」(8.8%)というケースも目立つことだ。

 東大医学部付属病院放射線科准教授・中川恵一氏がこう言う。

「たとえば、胃がんや大腸がんの早期なら、日帰り手術が可能なケースもあり、早期がんは95%が治ります。仕事と治療の両立が問題になるのは進行がんで見つかったケースです。そこで壁になるのが就業規則で、時短や有休を活用できるかどうか。大企業だと、がん患者の就労支援で活用できても、中小企業だと就業規則に明文化されていても上司や社長の無理解で活用できないことが少なくない。周りの反感を買ったり、冷たくされたり。だから、がん拠点病院の相談支援室や産業保健総合支援センターなどに治療と仕事の両立について相談するのが有効なのですが、そんな対応策を知らずに追い込まれ、行き場を失うケースがよくあるのです」

 たまたま会社を辞めずに済んだとしても、不利益を強いられることがある。前出の調査では1割以上の人が、評価が下がったり、給与が下がったりしていた。役職を降格されたケースもある。

「治療のために働く時間や日数が短くなったことで、その分、給与が少なくなることは納得できるでしょう。ただ、本人が望んでいないのに、過度な配慮で、配置換えをされたり楽な仕事に回されて給料が減る場合もある。フルで働けない人を適切に受け入れる環境が整っていない職場はまだ多いのです」(矢島洋子主席研究員)

■治療費をリボ払い

 罹患時に派遣社員だと、もっと悲惨である。金銭的に余裕がないため、居づらかろうが陰口を言われようが、休めないし、辞められないのだ。

 デザイン関係の仕事をしている横浜在住の女性(55)は、3年前、軽度の膠原病で通院していた総合病院の内分泌科で胸のしこりについて相談したところ、乳腺科を紹介されて乳がんと分かった。ステージⅠで大きさは1センチほどだったが、最初に医者に話したのは「お金がない」ということ。貯金はなく、民間の医療保険にも入っていなかった。独身の一人っ子で頼る兄弟姉妹はおらず、母は高齢。仕方なく5歳の時に母と離婚した父に連絡し借金を頼んだが断られる始末。社会保険組合に申請すれば上限が8万円になると教えられ、なんとかクレジットカードのリボ払いで支払ったという。

 休んだのは入院した1週間だけ。退院の翌日から出社した。その2週間後から1カ月半、放射線治療で通院することになったが、11時出社で了承を取り付けると、毎回8時に受け付けを済ませて一番に治療を受け、会社に滑り込んだ。

「リボ払いにした治療費は、今も支払いが続いています」(本人)

「がん患者は働かなくていい」という議員がいる政権与党に、病気に苦しみ、仕事で苦しむ会社員がいるなんてことは、理解できないだろう。