がんと向き合い生きていく

正常な組織は守る 副作用が少ない3つの最新放射線治療

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長
都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

 理髪業のAさん(63歳・男性)は、頚部から縦隔にかけてのリンパ節腫大、扁桃の腫大ありで、悪性リンパ腫「ステージ2」の診断でした。化学療法を3コース行ってリンパ腫は消失。その後も化学療法を5コース繰り返し、完全寛解しました。

 しかし、5カ月後に胃に再燃したため、他の薬剤で治療を行いましたが、まったく効果がありません。そこで、病気が胃に限局していることもあり、放射線治療を行うことにしました。照射した合計の放射線量は30グレイと少なかったのですが、見事にリンパ腫は消失したのです。

 ところが、その2カ月後、微熱、咳、息切れの症状が表れ、放射線治療による肺炎と診断されました。Aさんが行った放射線治療は胃だけではなく、どうしても正常な左肺の下部に当たることが避けられなかったのです。

 ただ、肺全体の機能は落ちたものの、ステロイドの大量投与によって幸いなことに症状は落ち着きました。

 Yさん(65歳・男性)は58歳の時に前立腺がんの診断で放射線治療を受け、担当医から「がんは完治した」と言われています。ところが、62歳の頃から便に血が混じることがあり、内視鏡検査では直腸からの出血で、放射線が当たったための後遺症とのことでした。その後も時々出血することがあり、一時は輸血も必要なほどでした。

■正常な組織部分に放射線を当てないことが重要

 放射線治療は、がんに放射線を当てて切らずに治す治療法です。多くのがんに対して効果があり、がん細胞のDNAに直接作用して細胞を死に至らしめるのです。ただ、がんが限局していればよいのですが、バラバラとたくさんある場合はなかなか治療が難しくなります。また、死滅させたいがん細胞だけではなく、がん以外の正常な組織部分にも放射線が当たってしまうことが一番の問題です。

 もちろん、がんには効率よく、正常組織には優しく、副作用が少なくなるように工夫されています。最近では、副作用を少なくするために「強度変調放射線治療」というがんだけを狙い撃ちする精度の高い治療ができるようになりました。

 ここでは、最新の3つの治療法を紹介します。これらの治療法では、AさんやYさんのような副作用はとても少なくなっています。

①TomoTherapy(トモセラピー)

 毎回治療の直前にCTを撮影し、以前の画像と比較して位置の誤差を補正します。つまり、がんが小さくなってきたらその分だけ照射範囲も小さくして、計画した場所に正確に治療を行うことができます。たとえば、前立腺がん治療では直腸への照射が非常に減ることが考えられます。

②CyberKnife(サイバーナイフ)

 第4世代のサイバーナイフは、最先端のロボット技術によって多方向から一点に集中して治療を行うことで、高精度の定位(ピンポイント)放射線治療を実現した治療装置です。以前は、頭部を動かないようにがっちり固定して行われていましたが、この技術ではロボットが照射中に生じる患者さんのわずかな動きを感知して正しい位置に補正して照射するため、1ミリ程度の誤差の高精度なピンポイント治療を提供できるのです。主に脳腫瘍や転移性脳腫瘍等の治療で用いられ、1回で治療が終了する場合と複数回に分けて行う場合があります。

③Vero-4DRT(ヴェロ)

「動体追尾放射線治療」というもので、呼吸による体内の臓器の動きに合わせて放射線が出るヘッド部分が動く機能を持っており、動体を追尾しての治療ができます。

 つまり、肺がんのように呼吸で動いてしまうがんに対し、がんだけに放射線を当てたい場合にとても有効です。赤外線認識センサー及びX線透視複合システムで体内のターゲットの位置を捉え、リアルタイムに照射ビームを最適な方向へ誘導します。ミサイルを追尾して迎撃するのと同じ考え方ですが、これはまだ国内では少ない台数しかありません。

 放射線治療も進化しているのです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。