「がんと仕事」厳しい両立

各企業の支援体制の差 大和証券は休職中も収入の85%補償

社員にやさしい大和証券
社員にやさしい大和証券(C)共同通信社

「ご家族のサポートもあり、私の上役もがん闘病を経て、無事に現場復帰しています」

 こう言うのは、オートバックスセブンのIR・広報部担当者。同社は社員の健康管理に先進的に取り組む企業を評価する「日本政策投資銀行・健康経営格付」で最高ランクAを獲得している。

 そんな会社がある一方、社員は“使い捨て”という意識が強いところもある。厚労省によると、がんになった社員の30%が依願退職し、4%は解雇されているのだ。そこまでいかなくとも、望まない配置転換はザラだ。

 がんになっても継続就労するのは当たり前--。それぐらい職場には、がん患者、元患者が多い。がん罹患者数は年々増加し、2016年推計で年間100万人を突破しているが、「年齢別のがん罹患者数」(12年=別表)を見ると、20~64歳で25万6824人の患者がいた。これは全体の約3割で、就業人口の200人に1人が毎年がんになっている計算。過去に遡れば、オートバックスセブンのように、同じ課の上司や先輩の誰かしらが経験者のはずだ。

 企業は生活指導や禁煙推進などで社員支援に乗り出しているが、実際は「健康診断」「有給休暇」「休職中の収入保障」の制度がより重要になる。大和証券グループ本社は、これが“家族”にまで手が行き届く。

「人間ドックは社員だけでなく、その配偶者(被扶養者=35歳以上)も対象にしています。社員本人のがん罹患は会社にとって損失ですが、その奥さまががんにかかっても同様と考え、こういう制度にしました」(大和証券グループ健康保険組合担当者)

 同社の社員ががんになると、従来の有給休暇に加え、同じ日数分の傷病休暇も与えられる。しかも最近は、化学療法や放射線治療は日帰りも増えているので、1時間単位で有休がとれる。

「疾病闘病中の傷病手当金は、法律の規定通り月額報酬の3分の2が健康保険から支給されますが、これだけでは生活は困難です。そこで会社から85%の収入になるように付加給付が支払われます」(前出の担当者)

 大和証券は営業マンの70歳定年も廃止すると発表しており、社員にやさしい企業だ。

■ヤフーは治療先で勤務の「どこでもオフィス」

 こうした取り組みをする会社は厚労省が旗振り役の「がん対策推進企業アクション」で増えている。秋田銀行は、人間ドックの日は特別休暇でお休み。ヤフーは治療と就業の両立支援のため「どこでもオフィス」という制度を設け、月5回は会社に来なくてもいい。

「ヤフーは宮坂学社長(49)自ら率先して社員の健康対策に取り組んでいる。平均年齢が35.5歳の若い会社ですが、IT業界には珍しく社員6000人の定着率は高い。会社に恵まれていると言えます。大和証券もそうですが、治療をしながら働ける職場は少なく、言ってはなんですが、外資系にはこういった福利厚生はほぼありません」(リストラ事情に詳しいジャーナリストの中森勇人氏)

 労働基準法上では、病気が「治癒」しなければ会社は社員の復職を認めず、解雇することも可能。就活中の学生は、目先の給与でなく、こうした健康対策の取り組みで会社を選びたい。