明細書が語る日本の医療

子宮頸がん手術「30代ピーク」はセックス年齢低下が原因

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写真上はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 写真の〈表〉は手術件数(2014年度)と新規患者数(2012年)をまとめたものです。「子宮頚部切除術」は子宮頚部の底の部分を膣側から円錐状に切り取る手術(円錐切除)、「レーザー照射」は子宮頚部の上皮内がんをレーザーで焼き殺す手術、「子宮悪性腫瘍手術」は子宮全摘(状況によっては卵巣や卵管、周辺組織なども併せて切除)です。

 他臓器では、患者数や手術件数のピークは70代か80代以上になるのですが、とくに子宮頚がんは「30代がピーク」という特徴的な分布になっています。HPVと呼ばれるウイルスの性感染が主な原因とされており、10年から20年を経て1割ほどの人が上皮内がんを発症します。セックス年齢の若年化によって20~30代の上皮内がんが増えたと説明されています。

 上皮内がんを放っておくと、本物のがん(浸潤がん)に進行することがあります。しかし自然に消滅するものも多いという研究もあり、手術を巡って国際的に統一見解が分かれています。見つかってもしばらく放置すべきだという意見もありますが、消滅するものと進行するものを見分ける技術がいまのところありません。そのため日本では、予防の意味も含めて積極的に手術が行われています。

 円錐切除は出血が少なく安全な手術です。しかし切除によって子宮頚部の厚みが減るため、再発などで繰り返し受けるにしても限度があります。また、頚部が薄くなれば妊娠の圧力に耐えられなくなり、流産や早産になりやすくなるともいわれています。30代の上皮内がん患者は約9000人。レーザー照射は2200件なので、残念ながら4人中3人が、少なくとも1回は円錐切除を受けている計算になります。

 30代の子宮体がんの新規患者数は約700人、2014年度でも800人に達していないと推定されますが、体がん患者の全員が子宮悪性腫瘍手術を受けたとしても、手術件数はそれを上回っています。つまり子宮頚がん(浸潤がん)と診断された人のうち、600人前後が子宮全摘を受けた計算になります。

 子宮体がんは30代ではまだ少なく、40代で一気に増えてきます。患者と子宮全摘のピークはともに50代。しかし60代や70代でもかなりの患者数、手術件数があります。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。