がんと向き合い生きていく

がん手術の過去によって職場を追われた患者さんもいる

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

 そのまま2年ほど元気に働いたPさんは、統計処理などの仕事を任され、会社にとって貴重な存在になっていました。そんな時、乳がんの手術をした病院での定期検診で、「肺に少し気になる小さな影がある」と指摘されたのです。翌週に行ったCT検査の結果は問題ないとのことでしたが、「念のため3カ月後に再検査」となり、結局、肺の影は問題ありませんでした。

 ところが、この検査が思わぬ事態を招きました。検査で会社を休む時、Pさんは上司である課長に「実は……」と乳がんの手術をしていたことを明かしました。すると後日、部長から呼び出され、「どうして面接の時に乳がんを隠していたのか?」と、同僚のいる前で問い詰められたというのです。Pさんは会社の理解のなさに愕然とし、結局、退職されました。

 子宮頚がんの手術を受けた会社員のCさん(40歳・女性)は、外来で抗がん剤治療を受けていました。入院する際、会社には診断書を提出したのですが、会社の事務に行った時、自分の診断書がむき出しのまま無造作にデスクの上に置いてあったことがとても気になっていたといいます。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。