役に立つオモシロ医学論文

坂道の多い街では糖尿病が悪化しにくい?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病を予防するには生活習慣が大切などといわれます。生活習慣は大きく「食習慣」と「運動習慣」に分けることができると思います。特に後者の運動に関しては、自分が住んでいる街の環境にも大きく影響しているかもしれません。

 たとえば、坂道の多い街に住んでいれば、歩行時に筋力をより多く必要とするので運動量が増すとも考えられます。一方、坂道が多いと徒歩で外出するのがおっくうになってしまい運動量が減る可能性も考えられます。

 居住している地域環境において、坂道の勾配と糖尿病の発症やその状態との関連を検討した論文が、健康に関する社会科学の専門誌「社会科学と医学」(2017年6月号)に掲載されました。

 この研究では、日本の46地域に居住している介護認定を受けていない65歳以上の高齢者8904人が対象となっています。地理情報システムを使って、地域における坂道の傾斜角を見積もり、糖尿病リスクとの関連を検討しています。

 その結果、残念ながら高齢者における糖尿病の発症と、地域における坂道の平均傾斜角については関連を認めませんでした。しかしながら、血糖値がしっかりコントロールできていない糖尿病は、地域における坂道の平均傾斜角が約1.5度上昇すると、18%統計学的にも有意に減少することが示されました。

 この研究では、坂道の多い居住環境に住むことが糖尿病を予防できるかどうかについては不明という結果でしたが、コントロール不良の糖尿病を予防できる可能性が示唆されています。

 街の環境をデザインするに当たり、道路にわずかな傾斜をつくることで、糖尿病の悪化を防ぐことができるかもしれません。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。