変異した新型も登場 ノロウイルス性食中毒は夏だって怖い

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 吐き気、嘔吐、下痢、激しい腹痛――。年間を通じてもっとも多い食中毒の原因は「ノロウイルス」だ。2015年の食中毒事件数1202件のうち481件(40%)を占めていて、患者数では総数2万2718人のうち1万4876人(65.5%)に上るという。ノロウイルスは冬場に流通する生ガキに多く生息するため、「冬の食中毒」の代表と思われがちだが、夏場の罹患者もゼロではない。どんな人が危ないのか。女子栄養大学の上田成子元教授に聞いた。

 食中毒の原因は大きく2つある。「化学性食中毒」と、細菌やウイルスによる「微生物性食中毒」だ。その数は後者が圧倒的に多く、冬場はノロウイルスを代表とする「ウイルス性食中毒」、夏は鶏肉などに繁殖するカンピロバクター菌などによる「細菌性食中毒」が多いことが知られている。

 ところが、上田元教授が調べた1997~2015年の「ノロウイルス食中毒の月別発生件数と患者数」によると、5~10月にノロウイルス性食中毒が569件発生している。これはノロウイルス事件数5488件の10.4%にあたる。患者数も2万1825人(10.3%)に上るという。

「ノロウイルス性食中毒は冬場の低温・乾燥により多発しますが、高温・多湿の夏だからといってウイルスがゼロになるわけではありません。とくに病気の人や高齢者、幼児など抵抗力の弱い人は、夏場でもノロウイルスにかかりやすいことは知っておくべきです」

 実際、15年の6月には、宮城県で流しそうめんの地域イベントで提供された食事からノロウイルスが原因の食中毒が発生した。神奈川県では、地引き網体験とバーベキュー大会に参加した男女55人が腹痛や下痢症状を訴え、うち19人からノロウイルスが見つかっている。

 ノロウイルスの感染ルートは3つある。①ノロウイルスに汚染されたカキや貝類を十分に加熱せずに食べた場合②ノロウイルスに感染した人が、十分に手を洗わずに調理した食品を食べた場合③ノロウイルスを含む糞便や吐瀉物を処理した場合――だ。

 その中でノロウイルス性食中毒にあたるのが①と②のケース。ノロウイルス性食中毒というと、生ガキなどの魚介類、寿司や刺し身などの加工食品をイメージしがちだが事実は違う。それは全体の18.4%に過ぎず、65.7%は飲食店やホテルなどが提供する料理やお弁当、和菓子やケーキ、クレープといった複合調理食品だ。

「最近は乾燥した焼き海苔を細かく刻んだ『刻み海苔』による集団食中毒が複数の小学校で発生するなど、従来では考えられないような食品が原因で起こるノロウイルス性食中毒が増えています」

■発症数が少ない夏だからと油断は禁物

 気になるのは14年ごろから「GⅡ.17」と呼ばれる新型ノロウイルスが発見されていること。従来の型が変異したもので、今後、湿気や暑さに強いノロウイルスが出現しないとも限らない。

「厚労省のデータでは、ノロウイルス性食中毒による死者はゼロとなっています。しかし、もともと体の弱い高齢者が亡くなった場合、ノロウイルスの感染があっても、どの程度影響したのかは分かりません。また、吐いたもので誤嚥することによって起こる誤嚥性肺炎や、吐瀉物を喉に詰まらせて窒息した場合もノロウイルスと結び付けられていないケースがあります。報告がないからといって甘く見てはいけません」

 ノロウイルスが怖いのはその強い感染力もさることながら、自分でも知らない間に感染者となってウイルスをばらまくことだ。

 実際、ノロウイルス性食中毒にかかった人は、その症状が消えても3日から3カ月くらいは排泄などでウイルスを出す。感染者の3分の1程度が下痢などの症状が出ない不顕性感染者だ。しかも、一般的な消毒用アルコールは効果がない。

「感染者が触れたタオルやドアノブ、食品などで体力のない子供、高齢者、病気の人が感染し、発症する可能性があるのです。発症数が少ない夏だからといって油断せずに、手洗いを徹底するなど衛生面に気を使うべきです」

 むろん、お弁当を買ったり、外食をするなら信頼できるお店に限ることだ。

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