明細書が語る日本の医療

膀胱がん・腎臓がんの合計患者数は“メジャーがん”並み

菅原文太さんの死は話題になったが...
菅原文太さんの死は話題になったが...(C)日刊ゲンダイ

 膀胱がん、腎臓がんと言われてもあまりピンとこないかもしれません。かつて、俳優の松田優作さん(享年39)が、膀胱がんで亡くなったことをご存じの人もいるでしょう。3年前に亡くなった菅原文太さん(享年81)も、膀胱がんを患っておられました。しかし、マスコミで膀胱がんや腎臓がんが取り上げられることが少ないこともあって、どうしてもマイナーなイメージがついて回ります。

 実際には2つとも決してマイナーな存在ではありません。

〈表〉に示したように、12年の新規患者はそれぞれ2万人を超えています。男性の数字がほとんど同じになっていますが、これは記載ミスではなく偶然です。個別に見れば、患者数はメジャーのがんと比べると少ないですが、合計すると男女合わせて約4万4000人(上皮内がんも含めれば約5万5000人)。死亡数(15年)は約1万7000人に達しており、部位別罹患数の6位、死亡数の7位に入ってしまうのです。

■膀胱がんは減少傾向

 高齢化の影響を除いた年齢調整罹患率を見ると、腎臓がんは上昇傾向にありますが、膀胱がん(浸潤がん)はまったく増えていません。実は1990年代からほとんど一定のままです。ただ上皮内がんを含めると、男女とも数字が上昇しています。つまり増えているのは上皮内がんのみ、ということです。

 これは泌尿器科で「尿スクリーニング」が頻繁に行われるようになったことと関係しているかもしれません。尿には膀胱や尿路の表面から剥がれ落ちた表皮細胞が浮いています。これを顕微鏡で観察して、異常な細胞が見つかれば精密検査となるわけです。尿スクリーニングは簡単な検査なので、排尿障害などの患者によく行われており、それが上皮内がんの大量発見につながっていると思われるのです。他臓器の上皮内がんと同様におとなしい病変で、浸潤がんに進行するケースは少ないといわれています。

 死亡数は膀胱がん、腎臓がんとも増加していますが、年齢調整死亡率で見ると、膀胱がんはまったく増えていません。男性ではなんと60年代から変わりなし、女性は長期的な減少傾向にあります。一方、腎臓がんの年齢調整死亡率は、男女とも90年代からジワジワと上昇傾向にあります。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。