Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

34年目の再発も…区切りの5年超も経過観察が必要ながん

 驚かれた人もいるのではないでしょうか。豪出身の歌手、オリビア・ニュートン・ジョン(68)が先月末、乳がんの再発を発表。予定していた米・カナダツアーを延期して、放射線治療などを受けるといいます。1992年に乳がんを克服してから、25年目の再発です。

 がんの治療は、一般に5年をメドに考えます。治療のスタートから5年間は、定期的に経過観察しながら、転移や再発をチェック。5年間、そういう異変が見つからなければ、一つの区切りとして、“治った”と考えるのが一般的です。

 なぜかというと、がんの種類によって、5年で一区切りをつけられるがん、できないがんがあるのです。全国がんセンター協議会は、5年生存率と10年生存率を調査しています。2つの生存率を比較すると、ヒントが見えるでしょう。

 たとえば、5年生存率は、胃がんが73.0%で、大腸がんが75.8%。10年生存率は、それぞれ69.0%、69.8%と生存率はあまり低下していません。こういうタイプのがんは、便宜上、「5年生存率≒治癒率」としているのです。そのタイプなら、経過観察は5年で一区切り。

 これに対して、年数を重ねるごとに、生存率が低下しやすいがんがあります。その一つが乳がんです。

 乳がんの5年生存率は92.9%ですが、10年生存率は80.4%と、10ポイント超も低下しています。乳がんは発症から10年くらいまで、生存率がほぼ直線的に低下するがんなのです。10年を超えると、低下が比較的落ち着くとはいえ、オリビアのようなケースは、決して珍しくありません。これまで経験した患者さんの中には、治療から34年後に原発部位から再発したことがありました。

 男性の前立腺がんや肝臓がんも、乳がんと同じタイプ。生存率が発症からの年数が増えるにつれて、再発が増え、生存率が低下します。このようながんは、5年を超えても経過観察を続けることがとても大切で、私は「一生、経過観察を続けてください」とお話ししています。

 がん細胞は、健康なときから毎日およそ5000個も発生しては消えていくと考えられています。それを免疫細胞が退治。5000勝0敗の闘いを繰り広げているのですが、あるときの1敗でがん細胞が増殖し、10~30年かけて検診で見つかるようながんになるのです。

 がんが見つかったときの進行度やがんの性質によって再発の時期は異なりますが、乳がんができ始めたころからCTなどで確認できないような微小転移という形で潜んでいたものが、再発を予防するための治療もすり抜けて何年後かに目で確認できるくらいに大きくなったものが再発です。

 それでも、最初の診断が早期がんならオリビアのような悲運は避けられる可能性が高くなるのも事実。やはり早期発見が重要です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。