有名病院 この診療科のイチ押し治療

【慢性血栓塞性肺高血圧症】東邦大学医療センター大橋病院・循環器内科(東京都目黒区)

東邦大学医療センター大橋病院循環器内科の池田長生医師(右)
東邦大学医療センター大橋病院循環器内科の池田長生医師(右)/(C)日刊ゲンダイ
全国で十指に入るカテーテル施設

 心臓から肺へ向かう動脈の圧が高くなった状態(平均肺動脈圧25㎜Hg以上)を「肺高血圧症」と言う。大きく5つに分類されるが、その一つが難病指定されている「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH=シーテフ)」だ。

 現在、診断されている国内の患者数は2500~3000人。年間200~300人ずつ増加している。しかし、適切な診療ができる医師が少なく、潜在的な患者を含めると実際はこの2倍以上いるとみられている。

 同科は、全国でおよそ80といわれるシーテフのカテーテル治療(BPA)を手掛ける施設で実施数は十指に入るという。BPAを担当する池田長生医師(顔写真)が言う。

「シーテフの病態は、肺動脈の血管内皮に古く硬くなった血栓がこびりついて血流を悪くさせています。原因は、脚の静脈にできた血栓が飛んで肺動脈を詰まらせる急性肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)の治療で、薬で血栓が溶け切らず残ってしまうケース。また、もともと血液が固まりやすい体質の人などに起こります」

 症状は、「息切れ」「息苦しさ」「胸痛」「足のむくみ」など。

 ひどくなると意識を失ったり、突然死する場合もある。硬い組織化した血栓がこびりついているので、CT検査をしても最初からシーテフを疑って専門医が読影しないと血栓があるように見えない。そのため、見逃されやすい。放射性物質を静脈注射して撮影する「肺血流シンチグラフィー」を行うとハッキリ診断できるという。

■10日前後の入院後は外来通院で済む

 最も効果的な治療は外科手術だが、人工心肺を用いて肺動脈を切り開いて、こびりついた血栓をはがす大手術になる。

 高齢者や持病のある人は手術関連死のリスクが高く、手術自体を嫌がる人も少なくない。次の選択肢がBPAだ。

「いまBPAは、日本が世界をリードする治療法として定着しています。格別に技術の難易度が高いというわけではありませんが、心臓カテーテル治療ができる医師でも肺の解剖や合併症を十分理解していないと危険なのでできません」

 全国でも年間50件行っている医師は10人ほどしかいないという。

 具体的には、同科の場合は局所麻酔で首の静脈からカテーテル(細い管)を挿入する。そして心臓を越えて肺動脈に進め、血栓で狭くなっている部分に到達したら、先端のバルーンを膨らませて広げる治療法だ。

「2時間くらいの治療ですが動脈の狭窄部分はいくつもあるので1回の治療では終わりません。だいたい2、3日おいてもう一度治療する患者さんが多いので、入院期間は1週間~10日くらいになります」

 多い人だと7、8回治療(入院4回)する患者もいるが、1人当たりの平均治療回数は3、4回(入院2回)という。主な合併症は、肺動脈を傷つける肺出血。池田医師は過去150~200件(30~40人)の治療で、軽い血タンが出たケースが20件あったが、もちろん死亡例はない。

「最後まで治療を終えると、患者さんの9割は肺動脈圧が25㎜Hg以下になります。その後は、外来で抗凝固薬の内服を続ける治療になります」

<データ>
東邦大学医学部の付属病院。
◆スタッフ数=常勤医師22人
◆年間初診患者数(2016年度)=1123人
◆BPAの年間実施数(同)=延べ50件(10人前後)