数字が語る医療の真実

【かっけ】原因不明でありながら治療法が先に確率

東京慈恵会医科大学は高木兼寛が創設
東京慈恵会医科大学は高木兼寛が創設(C)日刊ゲンダイ

 明治時代に猛威を振るった「かっけ」ですが、当時は原因不明で治療法のない病気で、多くの人が命を落としていました。

 しかし、原因が究明される以前にかっけは克服されます。病気の治療法が分かった後で原因が明らかにされたのです。

 原因が分からないのに病気を治すことなんてできるのか……そう思われるでしょう。しかし、ウソではありません。そこに登場したのが高木兼寛です。日本ではあまり有名ではありませんが、かっけとの戦いの歴史の中で世界的に最も有名な医師の一人です。私学医学部の名門、東京慈恵会医科大学の創設者でもあります。

 高木兼寛は薩摩藩の郷士の家に生まれましたが、若くから医師を志しました。薩摩藩立の医学校で英国軍医ウィリアム・ウィリスのもと医学を学び、その後は英国に留学します。日本に帰国後は海軍病院の院長となり、海軍で起こるかっけの原因の究明と、治療の開発に取り組みました。

 英国で医学を学んだ彼は、動物実験というような方法ではなく、実際の現場のどこでかっけが多く、どこでかっけが少ないかというような疫学的な手法を用い、かっけの原因を明らかにしようとします。そこに、原因が究明される前に治療が開発される秘密があります。

 彼がまず注目したのは、龍驤という軍艦の乗組員278人のうち161人がかっけに罹患し、そのうち25人が亡くなり、他の軍艦よりも患者や死亡が多いという事実でした。ここからかっけがどのように克服されていくのか。次回のお楽しみです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。