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膀胱がんの内視鏡手術数は新規患者数よりはるかに多い

膀胱がんと腎臓がんに対する手術
膀胱がんと腎臓がんに対する手術(C)日刊ゲンダイ

 膀胱がんの手術は、開腹で膀胱を全摘する「膀胱悪性腫瘍手術」と、尿道から特殊な内視鏡を差し込んで行う「経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)」の2種類です。

 腎臓がんは、がんに侵された腎臓の全摘を行いますが、大きく開腹と腹腔鏡に分かれます。〈表〉に男女別の実施件数(2014年度)をまとめました。

 膀胱は尿を蓄積する袋です。尿は腎臓で作られ、尿管を通って膀胱に流れ込みます。膀胱を切除してしまうと、尿の行き場がなくなってしまうため「尿路変更術」が同時に行われます。お腹にストーマ(排泄口)を作り、そこに袋を付けることになるため、QOLの低下が避けられません。前立腺や精巣などもあわせて切除します。

 部分切除ならストーマは不要です。がんとその周辺だけを切り取り、残りを縫い合わせるのです。ただし件数は限られています。また、開腹術にかえて腹腔鏡手術が行われることもありますが、やはりかなり少なめです。

 TURBTは、内視鏡で内側からがんを削り取る手術です。膀胱を失う心配はありません。がんの進行度が低く、周辺に浸潤・転移がないと判断されれば、まずこちらを受けることになります。

■何度も繰り返すのが原因

 膀胱がんの新規患者数は、上皮内がんを加えても男性2万6000人、女性6000人ほど(2012年)に過ぎません。ところが、TURBTの件数はそれをはるかに上回っています。実はTURBTではがんを完全に取り切れず、数年以内に再発するケースが多いのです。そのため2度目、3度目を受ける人が大勢いるわけです。

 腎臓は左右合わせて2個あり、両方とも同時にがんになることはめったにありません。そのため、がんに侵された方を全摘するのが基本です。ただし、がんの範囲が狭い場合は部分切除にとどめることもあります。

 腎臓がんの新規患者数は男性1万5000人、女性8000人ほど(2012年)。単純に計算すると、新規患者の7~8割が摘出術を受けている計算になります。また、開腹手術よりも腹腔鏡手術の方が多いのも特徴です。

 2011年から冷凍凝固法が健康保険の適用になりました。がんに太い針を差し込み、超低温にしてがん細胞を凍らせて殺す方法ですが、いまのところ件数はごくわずかです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。