がんと向き合い生きていく

「悪性リンパ腫」には様子をみていいタイプもある

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長
都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

 頚部のリンパ節が腫れる原因はさまざまです。子供では、病気でなくとも1センチ以下の小さなしこりにたくさん触れることも珍しくありません。また、歯肉や口腔内に感染があって炎症を起こしている時に、顎の下や首のリンパ節が腫れることもあります。この場合は、腫れているリンパ節に痛みがあることが多くみられます。他にもいろいろな病気によって腫れますが、深刻なのが「悪性リンパ腫」や「がんの転移」によるものです。

 がんの転移の場合は、がんが進行し、首のリンパ節に転移してリンパ節に腫れが表れます。口腔・喉頭がん、肺がん、食道がん、乳がんなどが挙げられます。また、特に左の鎖骨上部のリンパ節の腫れは、胃がん、大腸がん、前立腺がんなどの転移による場合があります。

 悪性リンパ腫は、白血球のうちのリンパ球が悪性になったものです。つまり転移ではなく、リンパ節の中のリンパ球ががん化して腫れるのです。

 高校生のKさん(18歳・女性)は、それまでこれといった病気の兆候はありませんでした。大学受験が終わって結果を待っていたある日、母親がKさんの首が腫れているのに気づきました。触ってみたところ、かなり大きな塊がいくつも首の両側にみられました。

 Kさん本人は、熱も痛みもなく元気そうに見えましたが、近くの医院に連れていきました。すると、医師からすぐに大きな病院へ行くように告げられ、紹介状を書いてくれたといいます。そして、私のところに診察に来られたのです。

 Kさんは両側の頚部、腋下も腫れており、しこりは大きいもので2・5センチほどありました。CT検査では腹部以下には腫瘍は認めませんでした。私は「小さいものを1個だけ取って詳しく調べる必要があります」と説明し、生検を行いました。

 病理診断は「悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)・瀰漫性B細胞型」でステージⅡという結果でした。

■日本人は「瀰漫性B細胞型」の非ホジキンリンパ腫が多い

 まずは1カ月入院し、抗がん剤による治療(CHOP+リツキサン)を2コース実施して、リンパ節腫大は消失しました。その後も外来で治療を繰り返し、計8回の抗がん剤投与を行って、いまは再発なく元気で過ごされています。

 悪性リンパ腫の初期症状は、リンパ節が腫れる以外に時々発熱することもありますが、Kさんのように症状がない場合もあります。リンパ節の腫れは、頚部だけでなく腋下や鼠径部の腫大で気がつくことも少なくありません。生検でリンパ節を切除し、病理診断によって確定診断します。

 悪性リンパ腫は「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」に大別され、そこからさらにたくさん分類されます。非ホジキンリンパ腫は大まかには「瀰漫性」と「濾胞性」に、また「T細胞型」「B細胞型」「その他の型」に分かれます。さらにリンパ節腫大の広がりでステージⅠ~Ⅳ期に分かれます。日本人に多いのは「瀰漫性B細胞型」です。

 治療は抗がん剤治療が中心です。限局した箇所には放射線治療が行われることもあります。瀰漫性B細胞型の5年生存率は、限局している場合(Ⅰ、Ⅱ期)は85%以上、進行期(Ⅲ、Ⅳ期)でも55%以上です。治療によってリンパ節の腫大が完全に消えきるかどうかが予後に関わってきます。

 悪性度の高いT細胞型やバーキット型のタイプでは、リンパ節の腫大は急激に進行し、治療に抵抗して重症となる場合が多くあります。一方、濾胞性リンパ腫は多くが低悪性度ともいわれ、状態によって治療法、経過が大きく違います。治療なしで経過を見る場合もあり、進行期(Ⅲ、Ⅳ期)では、治療によってリンパ節の腫大が完全に消えることはなかなか難しいのですが、それでも多くは長期(5年以上)の生存が期待できます。

 また悪性リンパ腫は、リンパ節以外にも胃、乳腺、鼻腔等に発生することがあります。特に胃では、MALTリンパ腫の場合はピロリ菌の除菌だけで治る場合もあります。

 悪性リンパ腫といってもさまざまなタイプがあり、すぐに命に関わる場合もあれば、経過を見てもよい場合もあるのです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。